帰れると、思っていた。
「すまない、彼はもうこの世界にいないんだ…!」
「い、ない…?死んだって、ことですか?」
「あぁっ、いや、違う!彼は勇者として召喚され、そして見事に魔王を倒し、元の世界へと帰ったのだ。」
テイルが慌てたように言う。ミールも頷いており、本当に勇者は帰ったのだろう。
と、言うことは…!
「帰った…?ってことは、帰れる方法があるんですか!?あのっ、初めて会ってこんなこと言うのは、アレなんですが!帰してッ、下さい!!俺を元の世界に!!」
俺は二人に縋るように言った。
帰れるという気持ちしか湧かず、相手が偉い人だということも忘れて一心不乱に縋った。
ただ二人はそんな俺から目を逸らし、首を横に振る。
それを見て俺は、縋っていた手を離して地面へとへたり込む。
「帰れ、ないん、ですか?」
「すまない、ユウヒ。あの者は魔王を倒したその翌日に帰ったのだ。彼はこう言っていた。女神から託された使命を終えたので向こうの世界へと帰る、と…。ただ、君は…。」
そう言って、テイルは残念そうに首を振った。
テイルの言う通り、俺は召喚されたわけでない。
女神に言われ、いつの間にかこの世界に来たのだ。ただ異世界の旅人だと言われ、この世界に送り込まれたのだ。
魔王を倒すという使命もない。ただ、送り込まれただけ…。
「そんなッ…!嘘、だろッ!?何で、俺が!!こんな、ずっとここで!?もう、向こうに帰れないのか!?……ふざけんなァッ!!!」
涙が出てくる。
もう向こうに帰れない。その事実だけが俺の脳内を駆け巡る。
もう向こうには、帰れない…。
ーーーーーーーーーーーー
ずっと叫んでいたと思う。喉が痛くなっても、頭が痛くなっても、帰れないという思いを消したくて。俺は叫んだ。
その間、ミールさんは沈痛な面持ちで俺のことを見て、テイルは塞ぎ込んだ俺の背中を撫でてくれていた。
「…ありがとう、ございます。もう、大丈夫、です。」
二人にお礼を言い、俺は立ち上がる。
「いや、大丈夫じゃないだろう。そんな顔をしているぞ。」
「あぁ、テイル様のいう通りだ。少し、休んだほうがいい。」
「大丈夫ですよ…。何も、わからないでしょ?二人には俺の気持ちなんて。」
「なっ、貴様!テイル様に、なんてことを!」
「ミール、今はそっとしておけ。…ユウヒ、確かに俺達には君の気持ちはわからない。すまない、無神経なことを言ってしまった。」
そう言って、頭を下げたテイル。
それを見た俺の頭の中が急に冷めていくのが分かった。
「ごめん、なさい…。助けてくれたのに、二人に当たってしまいました…。でも、本当に大丈夫ですから。」
そして俺はこの場を去りたくて、二人と反対の方向へ歩き出した。
「待て、ユウヒ。これは俺の勘だが、もしかしたら向こうへ帰れるかもしれないぞ?」
「………え?」
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