多分、王子様だ。



「ほぅ…すごいな、君は。そんなに弱々しいくせに、ゴブリンを五匹も倒したのか。」

「はぁ…、ありがとうございます。まぁ、あのデカブツにはビビりましたが…。」

「それは仕方のないことだ。アイツはゴブリンキングと言ってな。A級の魔物だから、君のように弱々しい者には太刀打ちできないだろうからな。まぁ、私はS級だから楽勝だったけどね。ほら、これがゴブリンの討伐証明だ。あまり無茶はするなよ?」


(何回弱々しいって言うんだ、この人。)


テイル様は地面に散らばったゴブリンの耳を集めていき、そのまとまった耳の束を俺に渡してくる。

その気色の悪い見た目の耳の束に、ドン引きしていると…。


「テイル様。あまり人に弱々しいと言ってはいけません。また喧嘩になりますよ。ただでさえ冒険者というのは、気性が荒いのですから。」


「あぁ、すまない。えっと…」

「あ、夕日って言います。」

「ユウヒか、いい名前だ。弱々しいと言ってすまなかったな、ユウヒ。」

「申し訳ない、この方は口下手なだけで悪気があるわけではないんだ。気を悪くしないでくれ。」

「いえ、別に気にしてません。助けていただいてありがとうございます、テイル…様?」

「テイルで構わないよ、ユウヒ。すでに知らない仲ではないからな。」

そう言って俺の頭に手を置き、ポンポンと撫でてくる。


「テイル様!」

「あぁ!すまない、弟に似ていたものでな。いや、これもだめか?」

「いえ、別に大丈夫です。…あの、質問いいですか?なんで、名前が二つあるんですか?テイルとオーヴァー…でしたっけ。」

俺がそう質問すると、テイルは少し困ったような顔をする。


そんなテイルの前に、強張った顔をしたミールが出てきた。


「すまない。私が言うのも何だが、その事については触れないで貰えるか。こちらにも事情があってな。陛下に言われているんだ。」

「陛下に…?え、王様って事ですか?」

「な、何故、君が知っているんだ!」

「えぇ…。自分で言ってたじゃん。……ポンコツなのぉ…?」

「私の騎士団内のあだ名も知っているだと!?やはり貴様は、只者ではないな!?」


頭の中で思っていたつもりが声に出ていたようで、ミールさんは怒ったように俺に詰め寄って来た。


「ミール、話が終わらないから少し黙っていてくれるか?それと、全て言ってしまっているぞ?すまない、ユウヒ。このことは、内密にしてくれ。でなければ…。」

そう言って、テイルは首を掻っ切る仕草をする。


「えっ…。」

俺は少し怖くなってしまったが、テイルは冗談だと笑っていたため、俺も釣られて困ったように笑った。


でも、バレたら結構なことが起きるかもしれないので、俺はこの先も黙っていようと思ったのだった。

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