吸血鬼に女の子にされた俺、メイドとして働くことになる
秋津幻
第1話
俺は、目覚めたら女の子になっていた。
「えええええ!?」
驚いている間もなく、扉から一人の女性が入ってくる。
「あら、お目覚めのようね」
「あなたは――?」
「私は、エミリア」
彼女は言う。
「吸血鬼よ」
「……吸血鬼?!」
俺は思わずベッドの上で後ずさる。
「ふふっ、怖がらないでいいわよ。何もしないからーーもうした、といってもいいかもしれないけれども」
そう言って微笑む彼女。
しかし、吸血鬼というワードに反応したのか、私の身体に変化が訪れる。
ドクンッ、そう心臓が跳ねる。
「あら、体が私に反応したのね……まだ、出来立ての体だからかしら」
「どういう……?」
「私が血を吸ったから――あなたの体は女の子になったのよ」
「……えぇ!!」
つまり、この人は本物の吸血鬼ということか……。
「じゃあ、今すぐ元の姿に戻してください!!お願いします!!!」
「それは無理な話だわ……」
「なんでですか!元に戻してくださいよ!!」
「だって、せっかく可愛くなったんだもの。そのままにしておいた方がいいでしょう?」そういって笑みを浮かべる彼女。
「嫌です!絶対に嫌です!!」
こんな姿のまま生きていくなんて考えられない。
「まあまあ、そんなに怒らずに……とりあえず落ち着いて。はい、これでも飲んでリラックスしてちょうだい」
彼女はそういうと、どこから取りだしたカップを私に渡す。
「また、変なものでも入ってるんじゃ――」
「失礼ねぇ、これは普通のハーブティーよ。ほら、香りも全然違うでしょう?」
確かに、渡してくれたカップからは良い匂いがする。
それに、さっきまで騒いでいたせいか喉が渇いている。
「……分かりました。飲みます」
俺は恐る恐るそれをのむ。……おいしい。
「どう?落ち着いた?」
「はい、落ち着きましたけど……どうして、いきなり女の子にするんですか!」
「そりゃあ、可愛い子が好きだからよ」
「えーっと、それだけですか?」
「うん、そうだけれど?」
「はぁ……そうですか」
理由を聞いて私はため息をつく。
「だって、これからあなたはこの屋敷で働いてもらうんですもの。私のそばにいるんだから?そりゃあメイドになってもらわなきゃいけないわよね?」
「はぁ?何言ってるんですか!元の男に戻して下さい!!」
「だ・め♪」
そう言ってウィンクをする彼女。
なんだこいつ……?
「まあ、諦めなさい。それに、悪いことばかりじゃないと思うわよ?」
「どういう意味で……」
「だって、あなた――もう身寄りがないんでしょう?」
「っ!?」
「それどころか、住んでいた場所もないんじゃないかしら?」
彼女は不敵な笑みを浮かべながら俺を見る。
「どうしてそのことを……」
その通り、俺の両親は死んだ。その流れで村から追放され、どこにも行けず流浪のみになった。
「言ったでしょう?吸血鬼だって。人間のことは何でも知っているのよ。例えば、あなたのこともね……」
「理由になってない……」
「なってるわよ。私が知りたいと思ったから、それで十分」
そう言い切る彼女に少し恐怖を覚える。
「それに、この屋敷には女の子しかいないのよ。男の子がいる方がおかしいでしょう?」
「そうなんですか……」
「だから、私があなたを拾ってきたの。身寄りのないあなたを新しいメイドにするために、ね」
そう言って、優しく微笑む彼女。……その表情を見てると、吸血鬼らしく、人間離れしてとても綺麗だった――
「――!」
また、心臓が跳ねる。
そして、体が熱くなっていく感覚に襲われる。
「どうかしたの?顔が赤いみたいだけど……」
彼女が近づいてくる。
すると、余計に鼓動が激しくなる。
「うぅ……」
俺は耐えきれなくなり、布団にもぐる。
「あらあら、恥ずかしがり屋さんね」
そう言って笑う声だけが聞こえる。
きっと、今の自分の姿を想像しているのだろう……。
「大丈夫よ、安心しなさい。ちゃんとあなたを立派な女の子にしてあげるから」
そう言って、彼女の手が俺に触れる。
「んっ……」
触れられた瞬間、ビクッとなる。
「ふふっ、敏感な子なのね。可愛いわ……」
「やめてくださぃ……」
「あら、ごめんなさい。つい触っちゃったわ」
そう言って、彼女は手を離す。
「今日はゆっくり休んでいいわよ。起きたばっかりなんだからね」
そうして、彼女は扉から出ていく。
俺は一人になった――
母さん、父さん俺――女の子になって、メイドとして働くことになりました。
***
翌日。俺はメイド服を着て立たされていた。
「うう……」
スカートをはかされて、足元がスース―する。恥ずかしい。
「あら、よく似合ってるわよ」
「嬉しくありません……」
「まあまあ、そんなこと言わずに。せっかく可愛くなったんだもの。もう少し楽しみましょう?」
「もう嫌です……」
「まあまあ、そういわずに……」
彼女はそう言うと、鏡を取り出してくる。
「ほら見て、これがあなたよ」
そこには、可愛らしい女の子がいた。
「なにこれぇ……」
「ふふっ、とっても可愛いでしょう?」
「こんな姿じゃ外歩けない……」
「それは困るわねぇ……」
「だから、ここにずっといましょう? ね?」
そう言って、彼女は俺の頭を撫でる。
「でも、今のままじゃあ、無理でしょうから……まずは言葉遣いから直さないとねぇ……」
「え……?」
「だって、そんな乱暴な話し方だと、すぐにボロが出ちゃうわよ?」
「いや、あの……」
「というわけで、早速特訓を始めましょう!」
「え、ちょっ!?」
こうして始まった、俺の女の子としての日々が始まった。……それから、1週間が過ぎた。
***
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「あら、ただいま」
ご主人様であるエミリア様が帰ってくる。
「それでは、私はこれで……」
「ちょっと待って頂戴」
「はい……?」
「あなた、本当に可愛いわよね」
「いえ、そんなことは……」
「謙遜しないでもいいのよ。あなたは私にとって大切な人なんだから」
「あ、ありがとうございます……」
「だからね……?私のお願いを聞いてくれるかしら?」
そう言って微笑む彼女。その笑顔はとても美しくて――怖いと感じてしまった。
「わ、わかりました……。どうすれば……」
「そうねぇ……」
顎に手を当て考える仕草をする彼女。
「ねえ、あなたこれから私のつけた名前で名乗ってくれない?」
「え……?」
それは、とても意外なお願いであった。
「そうね、あなたの名前は……エリー。これから、エリーと名乗るのよ」
「エ、エリーですか?」
「そうよ。可愛いでしょう?」
「そ、そうですね……」
「それじゃあ、よろしく頼むわね」
そう言って部屋を出ようとするエミリア様。
「あっ、最後に一つだけ……」
「はい?」
「あなたのこと、もっと知りたいの。だからね?私とお話しましょ」
そう言って、手を差し伸べる彼女。その瞳に吸い込まれそうになる。……そして、俺は彼女の誘いに乗ったのだ――
***
それからというもの、毎日のように彼女と話す時間が増えた。
「それでね、その時に彼が言ったのよ。『お前のことなんて好きじゃない』って!ひどいと思わない?!」
「はい、酷いと思います……」
「でしょう?彼はね、照れ隠しだったのよ。本当は私のことが好きなのにね……」
そう言って、頬を膨らませるエミリア様。
「あら、いけない。もうこんな時間だわ」
「本当ですね」
「今日も楽しかったわ。また明日ね」
「はい、失礼します……」……そして、俺は自室に戻る。
「ふぅー……」
ベッドの上に寝転がる。すると、体が熱くなるのを感じる。
(熱いなぁ……)
この体になってから、よくこうなる。きっと、女の子の体にまだ慣れていないからだと思う。
もう、一週間以上たつというのに。
「んっ……」
体を触ると、柔らかい。自分の胸なのに、触り心地が良い。
(なんでこんなことになったんだろう……?)
最初は戸惑ったが、今は落ち着いている。
……そう、俺は女の子になってしまった。それも、メイドとして働かされている。
「うう……恥ずかしい……」
鏡を見るたびに、自分が女であることを突きつけられる。
「それにしても……」
どうして、彼女は俺を女性化させたのか……。わからないことだらけだ。
「あー……もう!」
考えていても仕方がない。とにかく、彼女が満足するまで付き合うしかないだろう。……そう思って、俺は眠りについた。
***
翌日。
「おはよう、エリー」
「おはようございます……」
「今日も可愛いわね」
そう言って、頭を撫でる彼女。
「さあ、行きましょうか」
「はい……」
彼女に手を引かれ、食堂に向かう。
「そういえば……」
「なんです?」
「最近、変わったことはない?」
「いえ、特には……」
「ふーん……」
彼女は何かを探るようにこちらを見つめてくる。
「な、何でしょうか?」
「いや、何でもないわ」
「はあ……」
……それから、食事を終えた俺たちは再び部屋に戻ってきた。
「ねえ、エリー……」
「はい……?」
彼女は椅子に座る。俺も隣にある椅子へと腰かける。
すると、突然抱きしめられた。
「えっ!?ちょっ……!」
抵抗しようとするが、力が入らない。
「あなたは私だけのものよ……」
耳元で囁かれる声。ゾクッとする感覚に襲われる。
「やめて……ください……」
「嫌なら、振り払えばいいじゃない?」
「それは……」
できない。何故か、それができない。体が動かないのだ。まるで金縛りにあったかのように。
「ほら、無理でしょう?」
「くっ……」
「大丈夫よ。あなたが素直になるまで待つわ」
そう言うと、エミリア様はキスをした。……長い時間が経つ。
「ぷはぁ……」
ようやく解放された時には、頭がボーっとしていた。
「ごちそうさま」
「お、お粗末様です……」
「それじゃあ、私は仕事に行くから。あなたはゆっくり休んでいて頂戴」
そう言って、部屋を出る彼女。俺はそのままベッドに倒れこんだ。
「はぁ……」
体の火照りは収まらない。むしろ悪化しているような気さえする。
(ダメだ……。このままだとおかしくなりそうだ……)
そう思い、部屋を出た。
***
屋敷の中を歩いていると、ある場所に着いた。そこは、図書室である。
「ここに来れば落ち着くかも……」
中に入ると、そこには本がたくさんあった。俺は適当な本を手に取り読むことにした――
***
どれくらいの時間が経っただろうか?俺は夢中で読んでいた。しかし、不意に肩を叩かれたことで現実に引き戻される。
「エリー?」
振り返ると、そこにはエミリア様がいた。
「あっ、すみません……」
慌てて本を棚に戻す。
「ねえエリー……」
彼女は言う。彼女は言う。
魅惑的なその声で、どこか悩ましげに言う。
「あなたは私が化け物になっても……ずっとここにいてくれる?」
「えっ……」
突然のその言葉に俺は驚かざるを得なかった。
「それは一体どういう……」
「ううん、何でもないわ」
そういって、去ってしまった。
……なんだったのだろう、一体。
***
その日の、晩であった。
屋敷のドアが、ぎぃっと音を立てて開かれる。
「? 来客でしょうか。それなら――」
と、話しかけようとした瞬間。
ドン。
大きな音がする。
それは――銃声。
扉を開いた男が持っていたのは――猟銃であった。
「え」
私は、胸を抑える。
手を見るとそこには――血が、ついていた。
「――」
「殺してやる――殺してやるぞ、エミリアああああああああ!!!!」
男は、そう叫びだした――
その時だった。
「あああああああああああ!! エリーいいいいいいいいいい!!!」
エミリア様の声であった。
その瞬間。
男の体は、
ばらばらに引き裂かれ、
粉みじんに、
なった。
「――」
血が、舞い踊る。
エミリア様の手は、爪概要に長く伸び、赤い赤い血が垂れていた。
そして、背中からは黒い羽が生えている――
「あ」
私は、膝をついて、倒れた。
「エリー! エリー!」
エミリア様が、駆け寄ってくる。
私は、だんだん意識が遠くなっていく。
「エミリア、様……」
「エリー……どうしてこんなことに……。私のせいね……」
彼女は泣きながら言った。
「いいんです……」
「でも!」
「あなたの、せいでは……」
そこで、私の視界は暗転し、闇に落ちていった。
***
目を覚ますと、目の前にはエミリア様の顔があった。
胸には、包帯が巻かれている。
「あら……目が覚めた?」
「一体、どうなって……」
「彼はね、私に告白してきてくれた子なの」
彼女は、言う。彼女は、言う。
「それでね、断って実は私は吸血鬼なんだって言ったら、怒っちゃって。逃げて来たんだけど、まさか、ここまで追ってくるなんて……」
彼女は続ける。
「ごめんなさい……あなたを巻き込んでしまったわ……」
「いえ……そんなことはありません……」
「ありがとう……あなたは優しいのね……」
「ただ……」
「?」
「あなたと一緒に居たいだけです……」
彼女は、にっこりと笑う。
「……私もよ、エリー……」
「エミリア様……愛しています」
私は、言った。
言ってしまった。
いつの間にか、私と彼女は――
「ふふっ、嬉しいわ……」
そう言い、キスをする。
舌と唾液が絡み合う。……しばらくすると、彼女が口を離した。
「そろそろいいかしら……」
そう言うと、彼女の瞳が赤く光る。
「あっ……」
体が熱くなる。……また、だ。
「ねえ、エリー。私の血を吸わない?」
「血を吸うって、どうして……」
「あなたは、私が血を吸ったから、半分吸血鬼になっているの。……それでね、私の血を吸ったら、完全な吸血鬼になれるの」
そして、彼女は涙を流す。
「そして、そうしないとあなたは、あなたの銃で撃たれた傷は……」
胸を見る。包帯が巻かれたその先には、深い深い傷がついているのだろう。
少し、胸がチクリと痛んだ気がする。
「それにね、そうすれば、私とあなたはずっと一緒に――」
「……なるほど。分かりました」
にっこりと、彼女は笑う。
そして、首筋をさらけ出す――
私は、それにガブリとかみついた――
***
どこかの森の奥。屋敷の中には二人の吸血鬼が住んでいるという。
片方は、ドレスをまとった美しい女性。もう一人はメイド服をまとっているという。
そして、二人は普段は外に出ず屋敷の中でじっとしているって――
吸血鬼に女の子にされた俺、メイドとして働くことになる 秋津幻 @sorudo
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