第34話 ボーナス
暮れになりボーナスの時期が近づいて来た。
パートから社員になるメリットの大部分は、有休とボーナスがもらえる事だ。
私は、ワクワクしながらその日を待っていた。
そんな中、院長から全体ラインが入った。
今回から、ボーナスは、各部署のリーダーたちがスタッフ全員の評価をし、それを参考にして院長が金額を決める。といった内容である。
……?
これはどういうこと?
これまでは、スタッフ全員が評価表の項目ごとに自分で点数をつけ、部署リーダーは所属する部下の評価のみ行っていた。
そしてそれを元に上司と部下で話し合い、仕事の向上に役立てていたのだ。
(因みにこの提案をしたのはイケメン課長で、彼が最終チェックをして院長に報告していたらしい)
今回はそれがない。
イケメン課長が退職したので方針が変わったのか?
急に方針を変える理由は?
次の日、私は詳細をセッカチさんに聞いてみた。
「例えば私は、受付メンバーだけでなく、他の部署の人の評価もするって事です」
セッカチさんの説明によると、私の評価は、セッカチさん以外に、看護のリーダーとリハビリのリーダーと通所リハビリのリーダー四人がするということらしい。
それって変じゃない?
通所リハビリ部門は、他の部門とは離れた場所にあり、かつ仕事での関りもほとんどないのに、他部署の評価など出来ないと思うのだが?
いやに胸騒ぎがした。
ここのところ私はセッカチさんと気まずい関係が続いていたからだ。
しかしコロナで大変な中、休まずクリニックを支えてきたという自負が、私の胸騒ぎを打ち消した。
そして、ボーナス支給日。
少しの不安と期待で賞与明細書を開くと、私のボーナスは減額となっていて、社員になってから一番低い金額になっていた。
「……」
全体ラインでわざわざあのようなラインが送られてくるということは、誰かの評価が悪いという知らせであり、それは私の事だったということか。
つまり、私は他部署のリーダーたちからの評価が悪いという事になる。
他部署とは良好な関係を築けていると思っていただけにショックは大きかった。
セッカチさんの顔を見る。
「……」
その日は、いつも以上に機嫌よく張り切って仕事をしていた。
私は打ちのめされた気持ちになり言葉を失った。
こんな仕打ちをされるなんて……。
まるで詐欺にでもあったような口惜しさ・情けなさ・後悔の
入り混じった感情が体中を駆け巡った。
ここで働いていても報われない。
それどころか、ストレスで心身共にボロボロになってしまう。
悶々としながら年末の休みに入った。
休みに入ってすぐ、セッカチさんから個人ラインが来た。
私は、セッカチさんからの連絡が来た瞬間、賞与の説明なのかと僅かな期待をした。
しかし、ボーナス減額に関しての説明は一切無かった。
ラインの内容は、シズカさんから連絡がきて、来年受付に戻りたいと言っているので、院長を説得してみる。と言うものだった。
理由として、四月から理学療法士が四人も増えるので、患者増を見越して受付人員増を考えているというのだ。
リハビリ助手のキニシヤさん(出戻りのサワヤカさんと揉め、サワヤカさんを辞めさせた人物)<サワヤカさん>参照)も受付に加えれば、最強の受付になれる。と陽気なラインを見て益々気分が悪くなる。
賞与のことがなかったらおそらく私は、受付が三人体制になる事を喜び、モチベーションがアップしただろう。
しかし今は全く喜べない。
協力したいとも思えなくなっていた。
程なくしてシズカさんから電話が入った。
シズカさんはアコガレクリニックに戻ることを決めたと言う。
年が明けたらアコガレクリニックで面接がある事。
また私と一緒に働くのが待ち遠しいと元気な声で伝えられた。
私は虚しい気持ちでシズカさんの報告を聞いていた。
「ここを辞めようと思っているの」
思わず口をついて出る。
私を慕ってここに戻ると言ってくれるシズカさんには申し訳ないが、一緒に喜んであげる事はできなかった。
すると彼女はこんな提案をしてきた。
「ハナコさんがアコガレクリニックを辞めて転職したとしても、病院の受付はどこも同じで転職はお勧めできない。それよりもハナコさんが、アコガレクリニックで今より良い環境を手に入れるために私を使ってください」
「……えっ?」
「シズカさんを使うとはどういう事?」
シズカさんは自分の思いを熱く語り始めた。
「ハナコさんが社員からパートに戻れるチャンスじゃないですか!」
パートなら、社員の時のような不満もでないと思うし、休みも多く取れるから心身共に楽になる。
自分が入れば、受付に人が増えるので、ハナコさんは社員からパートにスムーズに変更できるのではないか?というのだ。
確かにシズカさんの主張は一理ある。
私がパートになった不足分はシズカさんが補充してくれるだろう。
ここは一旦落ち着いて、彼女の提案に乗ってみようかな?
数分の間、前向きな気持ちが芽生えては消えた。
こんなひどいことをされているのに、この時の私はまだアコガレクリニックを辞める決心ができていなかったのだ。
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