第33話 ワクチン打った次の日の有給は認めない?
私がパートから社員になる際に、半年経てば有休を10日もらえるという条件があった。
「社員になったら、ハナコさんが有休をきちんと取れるように協力するから。休みの日が祭日と被ったら振り替えられるようにしてあげる」
社員になろうか迷っていた頃、セッカチさんから言われた言葉だ。
しかし蓋を開けてみれば、祭日の振り替えどころか、とてもじゃないが「有休を取りたい」と言える状況ではない事が分かった。
そんな 中、驚愕の事実が発覚した。
なんと、例え事前に申請したとしても、コロナワクチンを打った翌日に有休を取ることは認めないというのだ。
ワクチンの副反応で熱が出るか出ないかわからないのに、前もって休もうとする考えがいけないらしい。
こんなの、あまりにも理不尽ではないか?!
しかもだ。
院長とセッカチさんは、ワクチン打った次の日に熱が出たら仕事できなくなるという理由で、自分たちだけは休みの前日にワクチンの予約をしているのだ。
「次の日熱が出ると困るから休みの前にワクチン打とうね」
横でこう話すセッカチさん。
これはおかしいでしょう?
スタッフも、熱出たら仕事できなくなるけど?
世間ではワクチン休暇を取らせる会社も出ているというのに…………。
私は早くも社員になったことを後悔していた。
そんなある日、コロナワクチンを打った理学療法士さんが、三人同時に体調を崩して欠勤した。
当然ながら、理学療法士さんが三人も同時に休んでしまったので現場は人手が足らず混乱した。
翌日、そのことに腹を立てた院長が、休んだスタッフの給料を減給にすると言い出した。
これには流石に当事者ではないスタッフも納得いかず院長に抗議した。
その甲斐あって、ベテランスタッフは減給とならず有給扱いとなったが、入社半年満たない新人さんには有給はないということで減給となってしまった。
院長は体育会系の「気合いが入っていないから熱が出る」といつも言っていて、熱が出ていても解熱剤飲んで出社することを強要していた。
”体調管理をしっかりしていないからから熱が出る”
”例え熱があっても休まず出勤するのが当たり前”
この考えは流石にどうかと思う。
医療従事者として、まして医者としてあるまじき思想ではないだろうか。
私は院長に不満を持ちながらも、辛うじて休むことなく出勤し続けた。
しかし、身体はだんだんと悲鳴をあげ始め、あらゆる場所に不調が現れるようになってくる。
肋骨が急に痛み出したり、胸のチクチクした感じや肩の異常な凝りなど、今までに経験した事のない症状が次々と現れ、それが何か月も続いた。
ストレスかな? それともワクチンの影響かな?
このまま働いていたら大病するかも。そんな予感がするほど身体が普通ではなかった。
「そろそろ限界だな?」 ふとそんな言葉がよぎったある日、二年前に辞めたシズカさんから連絡が来た。
シズカさんは、憧れクリニックを辞めて、3箇所の病院で受付を経験している。
そのどの病院も、院長やスタッフから意地悪くされたというのだ。
現在は他院の整形外科に勤務しているのだが、そこの院長は受付をあからさまに見下しているのがよく分かり、そんな職場で働いているのかと思うと気が滅入るそうだ。
受付には社員が三人いるのだが、彼女たちはそれを逆手にとって、仕事をサボってばかりいで、パートの方が沢山働いている。
そんな社員のために一生懸命働くのが馬鹿らしくなったというのだ。
「他の病院で働いてみたら、アコガレクリニックの人たちが良かった事を思い出したの」
「アコガレクリニックに戻れるようハナコさんから院長に聞いてもらえないかしら?」
シズカさんもまた、以前出戻ってすぐここを辞めたサワヤカさんと同じことを考えているようだ。
しかし今回の私は、シズカさんの要求を安易に引き受ける気持ちにはなれなかった。
そして、彼女が辞めてから今日までの経緯・現在の待遇・院長やセッカチさんの言動等を話して聞かせた。
ここに戻るより、今現在の職場にいて様子をみた方がいいと考えた。
二年前にここが嫌で辞めたのだから、戻ってくることはない。
私はシズカさんが戻らないことを願っていた。
「よく考えてみて。私は戻ることはお勧めしない、それでも戻りたいと思うのなら、私ではなくセッカチさんを通して院長に伝えてもらって」
そうアドバイスをして電話を切った。
院長やセッカチさんが、スタッフに対して理不尽な扱いをするのを目の当たりにするにつけ、私は病院への不信感をどんどん募らせていく。
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