第26話 困る患者
整形外科に来院する患者さんは、主に痛みを訴えてくる。
骨折など急性的な症状の場合はある程度の期間で治るが、慢性的な痛みの場合は、すぐ治る事は少なく何年も通院する事になる。
お年寄りは毎日リハビリに来ている人が多い。
オープン以来ずっと通い続けている患者さんもいる。
患者さんからいただく感謝の言葉や励ましの言葉は、私の元気の源となっていた。
しかし困った患者さんに悩まされる事もあった。
例えば、待つことのできない患者さん。
「さっきからずっと待っているんだけれど診察に呼ばれない」
「あの患者さんが私より先に呼ばれた」」
イライラしながら受付にあたる。
そんな時は、診察室に行き、順番を確認して患者さんに伝えるのだが、その説明をするにも時間がかかり、他に待っている患者さんの手続きが遅くなり、更に待たせて文句を言われるという悪循環になる。
運動療法の予約時間を大幅に遅れてきて「何時の予約なんだから早くして」とまるでこちらがずっと待たせたのかのように、不機嫌に言って来る患者さんは困る。
文句をいうなら時間通り来院してよ。と言いたいのだが、うちのクリニックが掲げる感じよい受付とはほど遠くなってしまうので口をつぐむ。
何人もそんな患者さんの対応をした日は、仕事が終わって家につくと、体が鉛のように重く感じ、家事などまったくやる気がおきなかった。
治療が終わってから「お金がない」と言ってくる患者さんも非常に困る。
病院といえども収入あって成り立っているので「いいですよ」とは言えず、お金のことで話し合いになってしまうのも気分は良くない。
交通事故の患者さんもあまり歓迎できない。
交通事故で辛いのはわかるのだが、手続きの事や料金の説明を嫌がり、受付に対して要求が激しかったりする患者さんが一定数おり、非常に神経を摩耗する。
交通事故の治療費は、保険会社が払うので患者さんの負担はない。
しかも、病院に通った日は一日5000円前後もらえるので、毎日通院する事になる。
そして半年ほど通院すると、保険会社から医療費が打ち切りになり、慰謝料ももらえなくなるので通わなくなる。というのが一般的だ。
交通事故を起こす患者さんは、事故を起こしやすいのか、何年かするとまた事故で通院してくる患者さんもいる。
保険会社から「当たり屋」と呼ばれていた患者さんには驚かされた。
アコガレクリニックがオープンしてすぐ交通事故でやってきたが、何事もうるさく文句をいう患者さんがいた。
受付の態度、トイレの掃除、玄関の見た目、駐車場の管理(混んでいて止められない。クリニックの患者ではない人が止めているからすぐ見てこい等々)多様な要求をしてくる。
リハビリ治療に毎日来院するのだが、そこでもやり方が雑だと怒り、笑顔がないといっては怒る事を繰り返していたので、とうとうその患者さんが来ると、二階のスタッフは皆嫌がり「今日は誰が対応する?」と押し付けあうようになってしまった。下品な患者>参照→この患者さんに怒鳴られる事件。
この患者さんは、治療が終了して皆でホットしていると、一年程経つとまたやってきては同じことを繰り返し、なんと5回も交通事故を起こして通院したのだった。
事故ばかり起こして身体のほうは大丈夫なのだろうか? と思うが、毎回元気になって治療が終了するので不思議でならなかった。
ある日保険会社から連絡があった。
その患者さんは、アコガレクリニックの他にも交通事故で通っている病院があり、筋金入りのあたり屋だと言うことがわかった。
交通事故と言っても、ほとんど後ろから追突されただけなので、ケガが重くならないように上手く操作していたらしいと保険会社は言っていた。
こんな車にぶつけてしまった加害者の方が気の毒だわ。
私は折につけ、この患者さんを話題にあげ、大切な家族や知り合いには、運転には気を付けるように伝えている。
他に色々難癖つけてくる患者さん、診察券や領収書、保険証を返してもらっていないといきなり騒ぎ出す患者さんがいる。
大抵は自分で持っていたり後から見つかるのだが、こちらは見つかるまで必死で探さなくてはならない。
認知症の兆候がある患者さんの場合だと、毎回繰り返し付き合う羽目になる。
こういった色んな患者さんと少しでも効率よく対応するために、院長の系列病院では、特に注意を要する患者さんのカルテに印をつけている。
例えば、P→ふしこ、話が伝わりにくい。
☆→扱いにくい。
N→認知症。
L→話しが長い等々。
受付で苦情を言う患者さんは、大抵、Pまたは☆マークがついているので「ああやっぱり」と納得していた。
このような裏事情がある事は関係者以外知る由もない。
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