第25話 選択肢がない?
ヤンキーさんとセッカチさんがペアーを組み始めてから一か月が過ぎた頃、今度はヤンキーさんがおかしくなった。
大病して病み上がりのヤンキーさんは、仕事が思うようにいかない。
その上、セッカチさんに追い立てられる形で仕事をするので、自分のミスが目立つようになり、それに応じてセッカチさんからの圧力も強まって、ストレスで仕事に行くのが辛くなってしまったらしい。
ヤンキーさんは、「受付の仕事は天職だ」と豪語するくらい、仕事にやりがいを感じていたはずなのだが、すっかりモチベーションが下がってしまっていた。
こういう場合、普通ならセッカチさんと話し合うか、他部署の上司に相談して解決してもらう事が望ましいと思うのだが、院長の身内贔屓が激しいと分っているので、セッカチさんの言動を訴えることは出来ず、本音で語り合えるはずもなかった。
「セッカチさんと仕事をすると気が滅入る」
「このままだとストレスで病が悪化しそうだ」
彼女は退職をするしかないと思うまでに追い込まれていた。
しかし、シズカさんの時の様に退職を後押しすることは出来なかった。
ヤンキーさんまで辞めてしまったら、私を理解してくれる人は一人もいなくなってしまう。
流石にそれは耐えられない。
「辞めるのはいつでもできるからよく考えて決めてほしい」
「平日にはシフト入らないで、土日だけの出勤にして様子をみたらどう? 私も土日は休まず出勤するから」と提案してみた。
私はヤンキーさんが、セッカチさんと仕事をするのが辛いなら、二人のシフトが被らなければ落ち着くのではないか?と考えた。
彼女はしばらく沈黙していたが、「そうしてみるよ」と言ってくれた。
ヤンキーさんが土日だけのシフトになり、ノンビリさんも相変わらずの中、セッカチさんからますます私への期待が高まっていくのを日に日に感じる。
それでも私は社員になることを迷っていた。
頼りになるシズカさんはもういない。
ヤンキーさんも土日だけの勤務になり一線を退いている状況だ。
ノンビリさんは受付の仕事が辛いと言っている。
セッカチさんはあの性格だ。
果たして私は、社員になって上手くやって行けるのだろうか?
できる事ならこのまま気楽なパートでいた方が私にとってはいいだろうと思っていた。
しかしこの状況下で、社員にならないという選択肢はもはやない。
院長やセッカチさんは、私が社員になることを強く望んでいる。
社員になればクリニックに貢献することにもなるだろう。
発言権も出で受付の状況を少しは改善することが出来るかも。
よし!
もう一花咲かせてみよう!
私は清水の舞台から飛び降りる気持ちで社員になる事を決めた。
セッカチさんは嬉しそうに「社員になった事絶対に後悔させないから」と力強く答えてくれた。
入社7年目、私はとうとうパートから社員になった。
大きな決断を終えた私は、足取り軽やかに、家族の待つ家に向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます