第六章

第24話 受付の適正・ノンビリさん?

ノンビリさんが受付に部署異動になってすぐ、彼女が受付の人たちから推薦された。という話はあっという間にスタッフ間に広まった。

 

その直後ちょっとした事件が起きた。


ノンビリさんが受付になった事に「納得いかない」と院長に抗議するスタッフが表れたのだ。


「なんでノンビリさんが受付に呼ばれたんですか? 私の方が経験者だし適任だと思うのに」

そのスタッフは、以前から受付をやりたかったらしい。


 院長は、次に受付で欠員が出たら彼女を受付にする。と約束してその場を収めたと聞いている。


 そんな抗議をするなんてすごいなあ。


 後から二階の人が教えてくれた事だが、ノンビリさんは、空気が読めず、ミスしても言い訳ばかりするので、リハビリ助手の間では「いつまでも仕事ができなくて困った人だ」とあまり良く思われていなかったらしい。


だから、ノンビリさんが受付に呼ばれた時「なんであの人が呼ばれたの?」と周りは不思議に思ったそうだ。


ノンビリさんを推薦した時のイケメン課長の顔が思い出され私は青ざめた。

 

そういう事だったのか。


そんな人を私は受付に推薦してしまったのね……💦


ちょっとまずいことになったかも?



ノンビリさんの教育はシズカさんが行った。


シズカさんが辞めてからは、私とヤンキーさんが交代で出勤をし、セッカチさんがノンビリさんに仕事を教えていた。


二か月が経ち研修期間が終わると、ノンビリさんの仕事ぶりが問題となってきた。。


 まず、ノンビリさんは動作が遅いので会計がどんどんたまる。


患者さんは早く帰りたいのでイライラし受付への苦情が多くなっていった。


仕方がないので、一緒に仕事をする人が自分の仕事のスピードを上げて手伝う。

 私とヤンキーさん二人で仕事をする日は、毎日来院している患者さんから、ノンビリさんの普段の仕事ぶりを聞かされていた。


ノンビリさんは周りが見えていないようで、どんなに混んでいようがお構いなしといった具合で焦る様子はない。


急ぐ様子もなく淡々と仕事をしているそうだ。


それが早く帰りたい患者さんには癇に障るのだと言う。


その横でセッカチさんだけがいつも大変そうにしているのも気の毒だ。という内容だった。


 患者さんはスタッフの様子をよく見ているので怖い。


 セッカチさんからも、ノンビリさんの困った仕事ぶりをよく聞かされるようになった。


 「いつまで経っても仕事を覚えてくれない」

 「メモをとってと言っているのにとらない」

 「マニュアルを渡しても、“頭に入らない”と言って目も通さないので、やる気が全く見られない」

 「一番困るのはお金の計算をちょくちょく間違える事」


 それを注意すると「私はちゃんと確認してお会計をしています」と言って、自分のミスではないかのように振る舞うらしい。


お金以外にもミスが多いのでそれを指摘すると言い訳ばかりする。とセッカチさんは呆れていた。


こうなると何から何まで嫌になるようだ。


「私がどんなに忙しく動いていても、ノンビリさんは手伝ってもくれず、のんびりハンドクリームなんかつけているのよ」

「こちらは、忙しくてトイレにもいけないのに、ゆっくりお茶を飲んでいるのを見ていると憎らしくなる」

こんな愚痴を周りに零すようになった。


しまいに。


「もうこれ以上、ノンビリさんとは仕事をしたくない」

「ノンビリさんと二人で受付に入るくらいなら、私一人で仕事した方がまし」

と言い出した時には驚いた。


 セッカチさんのこのような気持ちは、言わずもがなノンビリさんにも伝わっていた。


 「受付の仕事は辛い」

 「セッカチさんの圧力が強くてストレスがたまる」

 「寸志もリハビリ助手の時の方が多くもらえた。これなら受付に来ない方が良かった」

 そう零すノンビリさんは辛そうであり、その言葉を聞く私の気持ちは複雑で、どうしたら良いか悩む日が続いた。



 そんな中二階では、リハ受付窓口を作って予約管理とリハビリの算定をしっかりやってもらう人を採用しようかという話がでていた。


 セッカチさんは、院長と相談してイケメン課長に、「ノンビリさんを二階の受付にさせたらどうか」と提案したらしい。


 「どうしてですか?」

 イケメン課長は理由を尋ねたそうだ。


 「受付の仕事を覚えてくれないから、ハナコさんとヤンキーさんが二階に戻した方がいいと言っている」

 セッカチさんからそう聞いた彼は激怒した。


その後、セッカチさんの提案は白紙となり、リハ受付を作る計画も保留となったと聞いている。


 私はすぐイケメン課長に呼ばれた。


 「ノンビリさんを二階から受付に呼んでおいて、使えないから二階に戻すなんてハナコさんはどういうつもりなんですか?」

 怒りが収まらないといった感じで捲し立てる。


 しかし、当然ながら私には一切の心当たりが無い。


 私はそう言われて初めてセッカチさんの企みを知った。


 セッカチさんだけがノンビリさんとペアーを組んでいるから大変なのは理解できるけれど、ノンビリさんを受付から出すなんて、よくもそんなことが言えたもんだ。


 しかも私とヤンキーさんのせいにしてまで……。


 私は、セッカチさんと話し合うことにした。


「ノンビリさんのことは、私も一緒に教育するから、シフトを変えてやってみよう」しばらく様子を見ることで話がまとまった。


 そしてノンビリさんには、比較的忙しくない午後だけのシフトに変更してもらい、代わりに午後と土日のみ出勤していたヤンキーさんが、セッカチさんと組んで忙しい午前勤務をしてもらうことになった。

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