第五章

第19話 転職活動

初めてのハローワーク。


なんとなく後ろめたい感じがしながら恐る恐る入口を潜ると、案内係の人がいて丁寧に説明をしてくれた。


中に入り周りを見渡すと、50歳以上と思われる男女が多く、70歳近い外見の人もいた。


あの年齢でも勤め先を探しているのか。

そんなことを思いながら、渡された用紙に必要事項を書き込む。


待つこと一時間、私の番が来た。


窓口の人に「どうされましたか」と聞かれ、「転職したいと思っています、私の

年齢で雇ってもらえるところはありますか?」と答える。


 「そうですね、年齢で難しいところがありますが、選り好みしなければ見つかると思うので、あとはご本人さん次第です」と頼りない返事がかえってきた。


私の希望する職種の中から、病院受付、教育関係(塾の講師をしていたため)の

三社を紹介してくれた。というより三社しか紹介する案件がなかったようだ。



帰宅後、その全てに履歴書を送ってみたが、一社は書類選考で落とされてしまった。


一番興味がある職場だったのでがっかりではあったが、残り二社の面接を受けることにした。



最初に面接した学校関係の会社は集団面接が行われた。周りは私より若い人ばかりで経験・経歴共にかなわないと面接時から感じていた。


面接時一度も私に対して問いかけは無く、興味が無いと言った感じが伝わっていたので、一週間後「お祈りメール」が届いたときは、「やっぱりだめだったか」と諦めがついていた。


この年齢で新たな職場を見つけるのは簡単な事ではないな。


4年前アコガレクリニックに採用されたのは、たまたま運が良かっただけなのか。


私は自分の市場価値が低いことを知った。



もう一社は病院内科の面接だった。


面接時は感触よく「採用されるかも」などと期待していたが、院長夫人より不採用電話があった時は体の力が抜けてしまった。


院長夫人は良心的で、電話にて不採用を伝えた後、何故不採用かも教えてくれた。


その病院は、病院同士の付き合いを大切にしているらしく、まだ在職中の人を採用するのは控えているらしい。今後ご縁があったら今の職場を辞めてから再度応募して欲しいといったお話をされた。


なるほどそういう考えもあるのか。ほんの少しだけ、寸志の額に腹を立てて、衝動的に転職活動している事を反省した。


そして転職するなら、時間をかけ余裕を持って行動しないと、私のような中途半端な経歴と年齢では、希望の職種に転職などできないということを悟り、来年またしっかり準備して挑戦してみようと心に誓った。


ちなみに、転職を思い留まった理由はもう一つある。


私は、受付の仕事自体は嫌いではない。

患者さんから「ありがとう」の言葉をいただくことにやりがいを感じるし、患者さんの笑顔を見るのが好きだった。


一年我慢しよう。


セッカチさんと上手くやらなきゃ。



こうして私の転職活動は失敗に終わり、もう一度今の職場で働くことを決意したのだった。


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