第三章

第13話 受付の仕事

 ベテランのスタッフが一度に辞めてしまったので、新しく迎えるスタッフは即戦力を重視したい。


 出来れば、整形外科の経験者が望ましいのだが、なかなかそのような人材は見つからなかった。


 それもそのはず、アコガレクリニックは、スタッフの条件が他院と比べて良くないのだ。


 患者数が多く・業務量も半端でないのに二人体制で仕事をしている。


 時給は最低賃金、相場より二百円ほど安い。


 しかも土日勤務ありだ。


 経験者やベテランには魅力がなかったと見える。応募してくる人は未経験者ばかりだった。



 結局、程なくして、未経験のシズカさん、内科・小児科経験者のヤンキーさんの二人が採用され受付に入って来た。


 二人は整形外科のことは全く分からず、ヤンキーさんは私と同じ年でパソコン経験もなかったため未経験者と変わりがなかった。



 メガミさんが辞めてからというもの、受付では、業務の振り分けをどのようにしたらよいのか分からず、新人教育もままならない状態が続いた。


 そんな中、他部署からの不満や圧力が強くなってきた。


 「患者さんを二階にあげるのが遅い」


 「受付で30分も待たされたと患者が二階で怒っている」


 「二階のスタッフに迷惑かけるのもいい加減にしろ」

 毎日のようにいわれのない文句を浴びせるリハビリ部門の上司。


 「適切な誘導をしていない」


 「カルテの指示が分かりにくい」

 看護部門からも頻繁に文句を言われるようになり、八方塞がりの状況に陥った。 


 それだけではない。


 「受付の対応が悪い」


 「診察や会計が遅い」

 患者さんからのクレームも増え、あっという間に受付は問題部署となってしまった。


 

 アコガレクリニックの受付の仕事はかなりボリュームがある。


 患者さんが来院すると、カルテを見て診察に回すか?注射に回すか?リハビリにまわすか?素早く判断しなければならない。


 診察の場合は、何の検査があるか患者さんに伝え、電子カルテにその情報を入力し、ドクターや看護師がそれを見て準備をする。


 注射も種類が沢山あるので、患者さんの希望を聞きながら、その日のうちに注射が可能かまたどの注射なら受けられるか、カルテを見て判断しオーダーを出す。


 必ず打たなければならない注射や治療もあるので取りこぼしがないようしっかりと確認しなければならない。


 薬の処方も受付で確認する。


 「この薬は残っているからいらない」


 「この薬は何日分だけ欲しい」

 患者さんからの要望は多岐にわたる。


 運動療法の予約がある患者さんの場合は、注射や診察も同時にしたいとなると、どちらを優先すれば業務が滞りなく進むのかを考えながら誘導していく。


 その間に電話もかかってくる。電話の内容も様々だ。


「初めてなんですが腰が急に痛くなって……」

 症状の説明から始まり、どうすればいいのか?との質問への返答にも時間はとられる。


予約時間ぎりぎりで来院してきて、自分の前に人が何人も待っているのに「早く早く」とせかす患者さんも多い。


 「順番にお聞きしますので少々お待ちください」と言ってもお構いなしだ。

 我先にと、三・四人同時に話しをしてくる。


 お年寄りが多いから仕方ない事ではあるが、一度に何人もの患者さんの話を聞き取りながら、これらをスピーディーにこなす必要があるので新人にはかなり難しい。


 診察が混んでいる時は、待ち時間の不満を訴える患者さんも多く、受付の誘導が大事なのだが、新メンバーを加えての仕事は思う様にいかず「どうしたらいいか」と悩む日々が続いた。


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