第12話 ベテランスタッフの二人院長にブチギレ退職
受付メンバーの中では、役割分担のようなものが発生していた。
主に、思考力が必要な仕事や責任を伴う仕事はメガミさんが担当し、フシギさんは雑用のような仕事ばかりを好んでやっていた。
同じ社員でありながら仕事の質・量が全然違うのに給料は同じという現実に、メガミさんは時々不満を漏らしていた。
当然フシギさんとメガミさんとの仲は最悪だ。
二人はお互いに自分から話しかけたりはしない。
いつも私かサワヤカさんを介して仕事で必要な情報を得ている。
お互いにそんな感じだからとてもやりにくい。
「メガミさんはなんて言っているの?」
何かあるといちいち私に聞いてくる。
そのた度に、わざわざ二人に電話して確認し、聞いた相手に伝えるのだ。
私は通訳じゃない。
それに間に入ると、伝言ゲームのようになってきちんと伝わらない事も嫌だった。
また、二人のやり方や説明が食い違うこともあった。
どっちのやり方でやった方がいいんだろう……
パートの私はいつもまごまごしながら仕事をする羽目になる。
仕方がないので、フシギさんと仕事をするときはフシギさんのやり方、メガミさんと仕事をするときはメガミさんのやり方に合わせて作業をする。とても効率の悪い無駄な作業に内心嫌気がさしていた。
こうなる原因として、二人の能力の差が大きいのに、院長がメガミさんを陰で悪く言ったり、反対に、フシギさんを理由もなく庇ってばかりいることが原因なのではないか? と私は想像している。
この頃の受付は雰囲気がとても悪く、患者さんからの問いかけに、適当に返事をするフシギさんと、メガミさんの寄せ付けない性格も手伝って、楽しい雑談はほとんどなくなっていた。
クレームこそなかったが、患者さんが通いたくなるような明るい待合室とは程遠いものとなっていた。
そんな折、メガミさんが部署異動を申し出た。
そもそもメガミさんは、採用時から受付以外の部署を希望している。
院長にも受付はやりたくないと伝えてあったそうだ。
何故そんなメガミさんを受付にしたかと言えば、面接時の評価が、フシギさんの次に良かったからだそうだ。
“受付は病院の鏡”だからと言うが、希望していないスタッフを無理やり受付に配属しても上手くいかないと思うのだが。
こんなことなら、以前研修初日の顔合わせの時、受付を希望したのに通所リハビリ部門になったと悔しがっていた彼女とメガミさんを交代すれば良かったのに……。
今更ながら、辞めていった彼女の事を思いだし残念な気持ちになる。(配属部署発表参照)
兎に角、メガミさんは最後の望みをかけ部署異動を願い出た。
ところが院長は、彼女の切なる願いを聞き入れてくれるどころか非難したらしい。
「出来るメガミさんができないフシギさんをカバーすればいいことだ。自分は研修医時代からそうやって人と仲良くやって来たのに君は心が狭い」
この言葉を聞いたメガミさんは、もうこれまでと思い心が決まったそうだ。
事件は現場で起きている。
そんなに簡単に割り切れる事ではない。
それから数日後、私はメガミさんに声をかけられた。
「ここを辞める事にした」
「……」
「院長はスタッフを平等に見ていない」
フシギさんばかり贔屓している。
「平等にしようともしてくれない」
これじゃ~報われない。
「だから今後も変わらないと思う」
「……」
これまでのメガミさんの苦労を見ているだけに、引き留められないのはわかっている。
でも辞めて欲しくない。
「ハナコさんを受付に呼んでおきながら辞めるのは心苦しいけれど分かって欲しい」
私はメガミさんと一緒に仕事がしたいから受付に来た。
受付の仕事もまだ半人前だ。
今メガミさんに辞められたらどうしたら良いのかわからなくなる。
フシギさんと上手くやっていく自信などない。
切なさと不安の入り混じった感情がこみ上げる。
まるで恋人から別れ話をされているような気分になった。
聞けば、院長はメガミさんからの退職願いを簡単に受理したそうではないか。
何故?
早速、院長に理由を尋ねてみた。
「フシギさんはメガミさんにはいつも怯えていて嫌だったと言っている。」
「他部署の人からもメガミさんには仕事を頼みにくいと言われていた。」
「仕事が出来ても性格が悪いメガミさんより、仕事は出来ないが性格が良いフシギさんを取る。」
自信ありげに胸を張る院長。
私は院長の言葉を冷めた気持ちで聞いていた。
私が管理者ならメガミさんを手放したりしないのに!
程なくしてメガミさんはクリニックを去って行った。
私もいつかここを去る事になりそうだな。
きっと院長についていけなくなる日が来る。
そんな予感がした。
メガミさんが辞めてしばらくすると、今度は、フシギさんとサワヤカさんが日々いがみ合うようになった。
ベテランのサワヤカさんは、「それは違うでしょう、こうやったらどう?」とよく言っていたがフシギさんは取り合わなかった。
そしてフシギさんは、とんでもない行動にでた。
「サワヤカさんにいつも責められてストレスで眠れません」
院長に泣きついたのだ。
更に、自分や私のミスは報告せず、サワヤカさんのミスのみ院長に報告していた。
またもやその言葉を鵜呑みにした院長は、サワヤカさんを呼び出し何やら説教をしたらしい。
腹を立てた彼女は転職活動を始めた。
メガミさんが辞めて二か月後の出来事だった。
冗談でしょう!?
この期に及んで、サワヤカさんまで辞めてしまったらここはどうなるの?
これじゃあ~受付がめちゃくちゃになっちゃう!
今回は足掻くことにした。
すぐさまリハビリのイケメン課長のところに行き、サワヤカさんを引き留めてもらうように頼んだ。
「サワヤカさんまで辞めてしまったら受付は成り立たなくなってしまうので、何とか引き留めてもらえないでしょうか?」
それを聞いたイケメン課長は、院長に私の思いを伝えてくれた。
しかし、結果は残酷なものだった。
フシギさんの気持ちを優先した院長には、サワヤカさんを引き留める気持ちは微塵もなかった。
「去る者追わず」
私にこの言葉を突きつけた。
「辞めたい人がここにいても周りの雰囲気が悪くなる」
がっかりする私に院長は続ける。
「ハナコさんがいるから何とかなる」
自分は一人のパートに過ぎないのだ。
「少しの間は大変だけれど、新しいスタッフが育てば問題ない」
簡単に答える院長。
私はジャングルに放り出された気分になった。
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