第10話 フシギなスタッフ

 受付には二人の社員さんと一人のパートさんがいる。


 私を誘ってくれたメガミさん、独特の雰囲気を醸し出すフシギさん、そしてベテランパートのサワヤカさんだ。


 主に私は社員さんのどちらかとペアを組んで仕事をしていたのだが、すぐにここでの問題に気付いた。


 それはフシギさんの行動。フシギさんの仕事ぶりだった。


 フシギさんは、朝は早く出勤してくれるという点ではありがたいが、要領が悪いので時間がかかる。


 優先順位も分からず、受付の仕事をそっちのけで他部署の掃除・準備などの手伝いをしてしまう。

 つまり、受付の掃除や準備が後回しになるので、メガミさんが一人でフオローに回らなければならなかった。


 フシギさんは、他部署からの頼まれごとも感じよく引き受けるし、何でも「これは受付でやっておくよ」と引き受けてしまうので、専門外の仕事も受付の仕事としてどんどん増えていく。


 その引き受けた仕事はいつもメガミさんだけがやっていた。


 フシギさんはやらない。


 どうやら引き受けた事を忘れてしまうらしい。


 またフシギさんは、患者さんから言われた事もすぐ忘れてしまう。


 何回も同じことを言われるが、いつも初めて聞いたかの如くの反応をする。


 酷いときには、患者さんから預かった書類を無くしてしまったこともあった。 オーノー


 それでも、堂々と「書類は預かっていません」と言い切る。


 どうやら、いらない紙と一緒に書類をシュレッダーにかけてしまったのではないか? とメガミさんは予想していた。


 しかし問題なのは、大切な書類を無くしたのに平然と白を切る事。患者さんから何を言われても気にしないハートの強さはあっぱれだが、それが裏目に出て同じ間違いを繰り返す事だ。


 とにかくフシギさんの仕事ぶりにはいつも度肝を抜かれる。


 失礼ではあるが、どうしてこの人が採用されたのか疑問でしかなかった。


 ある時院長が、スタッフの配属部署への決定理由を語り始めた。


 「リハビリ助手は、明るくいつも笑顔で対応できる人を選んだ」

 うんうん。明るい人ね。


 「看護助手は、テキパキと動ける人でなければ勤まらない」

 確かに。効率よく動けなくちゃつとまらないわ。


 「通所リハビリは、周りが見えて気遣いのできる人がいい」

 なるほど。思いやりがある人ね。


 「受付は、覚える事が多いので、頭がよく・機転が利いて・ここで一番優秀な人を選んだ」


 「……えっ?」

 頭が良くて機転が利く人?

 


 また、フシギさんは面接時の感じが良く評価がずば抜けて高かったことも付け加えた。


 この時程びっくり仰天して我が耳を疑ったことはない。


 確かに感じは良いけれど。


 面接官はどこをどう見て判断したのだろうか……。


 採用されて、飛び跳ねたあの日の喜が吹っ飛ぶ。



 理不尽なことに、フシギさんはスタッフから「協力的な良い人」と思われており、他部署からの評判が良かった。


 対するメガミさんは、スタッフからの評判はあまり良くなかった。


 受付で一緒に仕事している人なら、きちんとやるべきことをこなしているメガミさんの良さが分かるのだが、このような事情を知らない他部署の人たちには、メガミさんはただ近寄りがたい存在に映っていた様だった。


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