第31話
旅の道中、ナッツとピィの居る街に着いた。
この街は、魔族によって負のエネルギーを収集するために作られた貧富の差の激しい街だった。
「ここに来るのも久々だね」
街の貧富の差はどうなっているか。
ナッツはもう貧富街に討ち入りにいかないと思うけど、変わらず親のいない子供達とピィとみんなで貧民街で暮らしているんだろうか?
「考えていることは分かりますよ」
イースさんに言われる。
そんなに分かりやすいか?
「私もナッツ達が気になるしさ、貧民街に行ってみようよ!」
一国の王女として、他国とはいえここまで貧富の差が激しかった街のその後が気になるのかアデリアさんも積極的だ。
以前、平民街で炊き出しをした場所で炊き出しが行われていた。
「まだやってくれているんだ…」
他のみんなも平民街が貧民街の人達を受け入れているのに驚いていた。
変な感動と共に炊き出しを見てみるとナッツとピィがいた。
近くには富裕街からナッツに声を掛けてきた女の子もいた。
おっと、知らない間にラブロマンスが発生してたのか!?ナッツもやるね~!ヒューヒュー!!
などと内心囃し立ててナッツ達の元へ行く。
「久し振り!」
「アルテ!!」
挨拶をするとナッツがとても驚いていてた。
そりゃそうだよな。本当に久々にこの街にくるもん。
ピィも気付いて両手を振って歓迎してくれた。
「炊き出し、まだやっていてくれたんだね!」
「まぁな。食材は平民街の連中が不要になったのを主に使ってたんだけど、最近は富裕街で不要になった食材も回ってくるようになったんだ」
「富裕街から!?」
あんな区別するためにある柵を越えるのを嫌悪していた人達が!
「それは素晴らしいことですね」
カルシアさんが感心する。
「素晴らしいってもんじゃないよ!よくあの上から目線の連中が手を貸すようになったもんだね!」
アデリアさんも興奮気味だ。
「それは……こいつが働きかけてくれたんだよ」
ナッツの近くにいた女の子が頭を下げる。
ナッツのラブロマンスの相手だ!
「ナッツも隅に置けないね~」
とからかい口調で言えば「は?なにがだよ?」と平然と返ってきた。
これはもしかしなくてもまったく伝わってないな!?
でも他人が口出すことでもないし馬に蹴られたくないから頑張れ!と女の子に心の中で応援をしておいた。
「まだ、全員って訳じゃないけど、あの時より富裕街から平民街に来る連中も少し増えた」
ナッツが満足気だ。
貧民街から上がるのも、富裕街から下りるのも、受け入れる平民街側も、どれだけ勇気が要っただろう。
ここまでくるのにどれだけ大変だったろうか。
初めて来た街の様子からは考えられない。
どうやら私達が旅をしていた間にこの街もだいぶ柔和になっていっていたようだ。
「それから、貧民街から平民街の店で職に就けるようになったんだ」
ナッツがとても嬉しそうに、誇らしそうにに言う。
犯罪をしなくてもきちんとお金が貰えて、人権も認められて、いい傾向だ。
「良かったね」
言いながらナッツの頭をぐしゃぐしゃに撫で回す。
「やめろって」
でも、どこか少し嬉しそうだ。
ナッツは今まで甘えられる状況じゃなかったから、甘やかせられる時は甘やかしてやろう!アルテさんの方が人生の先輩だからな!
ピィも羨ましそうに見ていたから頭をぐしゃぐしゃに撫で回していたら楽しそうにしてくれた。
うん。子供はこうでなきゃな。
「おら、遊んでいるなら少しは手伝え」
気が付くと私以外はみんな炊き出しを手伝っている。
「待ってよ!私も混ぜてよ!」
慌てて炊き出しに加わった。
炊き出しのレシピは教えていったものより増えていっていた。
それも嬉しい。
誰かがこの炊き出しのために教えたということだ。支援してくれているんだ。
少しずつ、本当に少しずつだけれどこの街は前へ進んでいっている。
私達も頑張ろう。
とりあえず炊き出しの手は休めずに、求める人へ求めるように渡した。
中には富裕街の人と分かる人もいて、思わず笑みが絶えない。
かつて魔族に作られた人間達の負のエネルギーの狩場は、人間達の手によって変わりつつある。
段差や柵という垣根があっても、その段差も柵も完全にではないけれど、少しずつなくなるだろう。
…人間と魔族もそうだといいな。
そうしてみたい。そうするんだ。
今晩はナッツ達の根城にお呼ばれされたが、以前よりは改修されていて住みやすくなっている。
これも富裕街や平民街からの支援物資だろうか?
衛生面も向上していてアルテさんとしてはとても嬉しい!
誰かが誰かを気にしてそれがいい方向に向かうというのはとてもいいことだ。
ピィはもうはしゃぎ疲れて寝ている。
ナッツが寝床を用意してくれながら訊ねた。
「アルテ達は今は何をしているんだ?」
「私達は今は魔族と人間が仲良くなれるように旅をしているよ!」
「…………は?」
「世界平和を目指しています!」
「……馬鹿じゃねぇの?」
「本当に、馬鹿みたいですよね」
ナッツにもイースさんにも呆れられても事実だから仕方がない。
わりと仲がいいなこの二人。
「……でも、お前ならなんか出来そうな気がする」
ナッツがこんな風に笑うなんて、この街に初めて立ち寄った時には考えられなかったな。
いつものように、へらりと笑う。
「ありがと。頑張るよ」
へらり、へらりと笑って力を抜いて、私はもう勇者なんて大層な肩書きを捨てた単なる冒険者なんだから、ただのアルテとして自分に出来うる限りのことをするだけさ。
「ナッツも頑張っているよね」
「そうそう!知らないメニューもたくさんあったね!美味しかった!」
アデリアさん、手伝いながら食べてたのか…。私も食べたけど。
最初に炊き出しをやったのは私達だけど、未だに続いているなんて本当に思いもしなかった。
「まぁな。どっかの誰かが壊してくれた垣根をそのままにして、はい元通りなんてする訳がないだろ」
素直じゃないところは相変わらずだ。
カルシアさんも笑っている。
「炊き出しのメニュー、増えていたね」
「この街は元は他の国からの移民が増えて出来た街だからな。他国のメニューなんてどっかの家庭に伝わっていた。それを教えてもらって炊き出しに使わせてもらっている」
ナッツが人から教えを乞うようになるなんて…!
「ナッツはえらいね」
また頭をぐしゃぐしゃに撫で回す。
「やめろって言ってんだろ!」
「えらいナッツを褒めてるんじゃん」
ぐいぐい、ぐしゃぐしゃ寄っては撫で回して、えらいえらいと言い続けるとナッツが小さく「そんなことねーよ。お前らの方がすげーよ」と少し赤くなって呟いた。
それからはこの街を出てからの旅の話をした。
魔王の城云々からの話は嘘だろうみたいな目で見られたけど、ナッツなら大丈夫だろうと思って紹介しておいた。
「そんなこんなで実は元魔王だったカルシアさんです」
私の突然の告白にカルシアさん達はぎょっとしていたけど、ナッツは「へー」だけで済ませた。
「驚かないのですか?私が魔族でも平気なんですか?」
カルシアさんが訊ねると、ナッツは私を指差して答えた。
「こんなのの仲間をしている時点で充分おかしなやつだと思っているから今更魔族だとか言われても特に感想はねぇな」
「とても失礼!ちなみに私は元勇者です!!」
「そっちの方があり得ない感じがする」
「失礼ー!」
「正論ですよ」
このー!と、ナッツとイースさんに構っているとカルシアさんは私が魔王を辞めましょうと言ったときより肩の力が抜けていた。
「ね。言ったじゃないですか、カルシアさん。勇者だとか魔王だとか、そんなもんなんですよ」
カルシアさんの頬をむにっと摘まんで笑顔を作って、抱き締めた。
「世界には魔王も勇者も必要なんてないんですよ。魔族も人間も分かり合えますよ。いつかきっと」
今すぐなんて言えない。言わない。
そんな簡単に解決できたらカルシアさんは悩まなかった。
「この街も地道に頑張っています。私達も地道に頑張りましょうよ」
「……はい、そうですね」
カルシアさんが、初めての多分今までより柔らかい笑みを浮かべて肯定してくれた。
「おらっ!そろそろ寝るぞ」
もっと話したかったのにもう消灯時間らしい。
「はーい。おやすみなさーい」
そうして就寝した。
今までみたいな野営の雑魚寝と同じだけど、ナッツ達との雑魚寝も楽しかった。
明日、また炊き出しがあったら最初から手伝おう。
そう決意して就寝した。
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