第29話

カルシアさんとキースさんと話をするって言ってもどうすべきか。

カルシアさんが魔王を辞めること、キースさん以外の反魔王派の連中のこと。

それらをどうにかしても本当に平和になるのかな?

一部の魔族は人間に許されないことをしてきたし、人間も魔族というだけで偏見を持ってすべての魔族を悪と決めつけてきたし、実際ギルドで退治の依頼なんかも出ている。

殺し合いは私達の知らないところで続いている。

どうしたら平和になるのか。

それはみんなで考えようって、みんなで決めた。

一人で勝手に背負い込まない。

これはカルシアさんにも言えることだけど、カルシアさんは意外とそういうところに自分は含まれていないと思っている。

…もう、勇者とか魔王じゃなくて仲間なのにな。




魔方陣が消えた庭からイースさんのお宅に戻ってまたリビングで作戦会議が始まり、イースさんのお母さんが果実水をみんなに配ってくれた。

「で、俺が管轄している反魔王派以外の魔族だが、どこで何をしているのか一切知らん」

開口一番キースさんが告げる。

「反魔王派ってさ、人間を食い物にしてるやつらもいるんだよね」

アデリアさんが言うのはあの街の魔族のことだろう。

「そうだな。それぞれが好きなことを好き勝手やっている」

好き勝手やり過ぎている魔族、主に人間に危害を加える魔族はなんとかやめさせないといけない。

「どうすれば反魔王派の魔族に大人しくしてもらえますかね?」

キースさんがカップに手を付け一口飲む。

「話は簡単だ」

キースさんが飲んでいたカップをテーブルに置く。

「地道に各地を回って他の魔族に話と筋を通すしかねぇな」

そしてまたカップを手に取りぐびっと飲み込む。

「簡単…というか、それが一番シンプルで分かりやすいよね」

頷いて私も渡されていた果実水をぐびっと飲み込んだ。


「よし!世界中を巡って反魔王派の人達に話をつけにいきましょう!!」


私の決意表明は、無言で迎えられた。

「世界中って…正気ですか?」

「正気も正気さ!やってみなきゃ分かんないよ!」

ごー!ごー!と右腕を上下に動かしてアピールすると、アデリアさんが頷いてくれた。

「そうだね。それしか現状方法はないもんね!各地に旅するくらい、今までだってやってきたよ。それに新しい目標が出来ただけじゃん!」

「本当に……私に魔王としての素質があればこんな風に反魔王派とか面倒くさいことにならずに済んだのに申し訳ありません…」

「もー!その話は終わったんですって、カルシアさん!今はとにかく世界中を巡りましょう!」

俯くカルシアさんの両頬を持って持ち上げる。

「……仕方がないですね。その案しかないなら、行くしかないですね。世界中」

イースさんがやけくそ気味に言った。




こうして、世界中を地道に巡って他の反魔王派をなんとかするってことになった。

それが一番地道で確実だ。

……そういえば。

「よく考えたら私、今まで立ち寄った村や街で堂々と勇者です!って言ったことないんですよね。偽勇者が路銀をせしめていた時以外」

みんなの視線が集まる。

「だから、『勇者』なんて肩書きは本当はいらないんじゃないかなぁって思います」


勇者って、なんなんだろうな。


今までたくさんの理不尽も楽しいこともあった。

この旅で得たものはきっと大きい。

カルシアさんをまっすぐ見る。

「だからカルシアさんも『魔王』だからとか、案外関係ないかもしれませんよ。誰が魔王でも、きっと好き勝手やる魔族は好き勝手してます」

「まぁ、それが元は魔族本来の在り方だったしな。カルシアが勝手に規則だなんだと決めて押し込んだ結果が反魔王派という元来の魔族としての在り方を貫いた連中だ」

「そうですよ!だから、カルシアさんもいい加減魔王としてとかやめましょう。私も勇者としてとか考えるのやめます。単なるアルテとして旅をします!」

カルシアさんは無言だった。

私より魔王の立場が長かった分、なりたくなかったとはいえそんな簡単にはその立場を捨てられないんだろう。

責任とか放り投げてるんだから今更だとは思うんだけどな。

言ったらまたぐじぐじ悩むので言わないけれど。一度決めたら頑固なのにな。

私なんて元からなりたくなかった『勇者』なんて肩書きの託宣なんてポイだ。

でも、私が決めた託宣の意味『殺しに慣れることなく、魔王も倒さず、平和にしてみせよう。』はやってみせる。平和にしてみせる。

勇者じゃなくても出来るはず。

ここまで勇者の恩恵なくしてここまでこれたんだから。




その日は一晩また泊まらせていただいてイースさんとキースさんがお母さんの手伝いをしているのを微笑ましく見ていた。

こういう光景を当たり前にしたいな。


「イースさんは、せっかくご両親が揃ったのにまた旅に出ていいんですか?」

「なんですか?僕だって勇者パーティー…はやめたんでしたね。あなた達仲間の一員なんだから、ついていくのは当然じゃないですか」

少し膨れっ面で言われる。

可愛いから思いきり抱き締めた。

すぐに叩かれて剥がされた。腕力も強くなってきて、イースさんも成長しているんだなぁとご両親のいる前で親みたいな感情になった。

「アデリアさんも、ついてきてくれるんですか?王女様としての責務とか…」

「そんなの気にしてたら家出なんてしないって!それより、アルテ達と世界平和に貢献した方が一国を束ねる一族の末席としても誇らしいでしょ」

アデリアさんがフフンと笑うのが可愛くて抱き締めたら抱き締め返された。

「よーしよしよし!またみんなで旅が出来るの楽しみだね!」

犬みたいに頭をわしゃわしゃ撫でられても気にならない。

誰も欠けることなくまた旅が出来るのが嬉しい。




キースさんと奥さんに手を振って「行ってきます!」と言ったら「行ってらっしゃい」と返された。

こんな旅の出発は初めてだった。

また立ち寄った時に、ただいま!と言いたくなってしまう。

少しむず痒さを感じた。

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