第25話

行く先々でイースさんの顔を差し出しながら「この顔が成長した男性見ませんでした?」作戦を実行しているが、目撃情報はまだない。

地道過ぎる作業にいい加減疲れてきた。

主に顔を差し出されているイースさんが。


「いっそイースの故郷に行ってみる?意外と平然といるかもよ」

とのアデリアさんの提案に、何の策もない私達はイースさんの故郷を目指すことになった。

「何もない街なんですけどね。……着いたら母にも紹介します」

少し照れてイースさんが言った。

イースさんのお母さんか。

キースさんという魔族と夫婦になってイースさんをこんなにいいこに育てたならいい人なんだろうな。

「久々の故郷、楽しみだね」

「そうですね」

どこかそわそわしている姿がかわいいから頭を撫でたら怒られた。

イースさんの故郷、楽しみだな。


そう思いながら東の方へどんどん歩いていく。

カルシアさんが言った通り、領域外の魔族や魔物はカルシアさんが相手でも遠慮なく戦いを仕掛けてくる。

魔物は魔族と違って知性がそんなにないが本能はある。

本能で強さを測って勝てると思えれば獣のようにこちらを餌だと思って襲ってくる。

無戦力のハヤトさんが加わったせいか、狙われる回数が多くなった。

だけど上下関係ははっきりしていて、魔族が人間を襲わなくなれば魔物も従うかもしれない。

でも、そんなことはまだまだ無理なので襲い掛かってくる魔族と魔物を斬り倒す。

切って切って切り殺して、これがカルシアさんの言う殺し合い過ぎたってことなのかなって思った。

血に汚れた剣を拭きながらそんなことを思った。




てくてく、現れる魔物を斬り倒してはイースさんの故郷を目指す。

道中の村や街でも聞き込みは欠かさない。

今も小さな村に寄って聞き込み調査をしている。

「そういえば、イースさんは幼い頃にキースさんが書き置きを残して失踪したって言ってたけど、他に何か思い出話とかないの?」

「そうですね…肩車をしてもらった覚えだけはあります。本当にそれだけなんですけどね、父親らしいことをしたのって」

キースさん、父親らしいことしてたんだ。

なら、イースさんへの愛情は少しはあるのかな?

「いいお父さんだね」

「いい父親は幼い子供と母を置いて失踪しませんし反魔王派を組んで異世界から新魔王を据えるなんて無謀はしません」

イースさんの目が一気に冷めたものになる。

思春期の取り扱いが難しいなー!

なんて話で盛り上がっていると縁側の椅子に座っているお婆さんと話をしていたアデリアさんに呼ばれた。

イースさんと顔を見合わせて慌てて向かう。

「お婆さん、お婆さん!この子、この子の成長した顔だよ!本当に見覚えあるの?」

なんと、第一目撃者発見か!?

「そうだねぇ。確かに似ているねぇ。あの人はあなたのお父さんかい?」

お婆ちゃんは思い出すかのような素振りでイースさんを見た。

「名前がキースであれば多分僕の父です」

「名前までは教えてくれなかったね。名乗るほどの者でもないとか言って」

「お婆ちゃん、その人、ここで何をしていたの?」

もし悪いことなら突き止めなければ!

しかし、お婆ちゃんはけらけら笑ってイースさんの手を握った。

「なんにも。私が転びそうになったのを助けてくれてね。買った荷物を持ってここまで連れて帰ってくれたんだよ。あの人はあなたのお父さん?あの時はありがとうねぇ。いいお父さんだねぇ」

お婆ちゃんはしわくちゃの手でイースさんの手を握り、にこにこ笑っている。

イースさんは戸惑いながらも「会ったら伝えておきます」とだけ返していた。

私はというと、キースさんという魔族が余計に分からなくなった。

アデリアさんは「イースのお父さん、いいやつだな!」と、にこにこしている。

イースさん、カルシアさん、ハヤトさんは微妙な顔だ。

「ハヤトさんから見てキースさんってどういう感じでした?」

「それが、召喚してお前が新たな魔王だ!と指差されて以降お会いしてないので、どういう人物かはなんとも」

……イースさんよりわりとノリで生きている感じの魔族なのかな?

一人の目撃情報が出ると次々目撃情報が出てきた。

この村には数日間滞在していたらしく、やれ椅子を直してくれたやら、泣いていた赤子をあやしてくれたやら、野菜の収穫を手伝ってくれたやら、新魔王を召喚してまで現在の平和的な魔王カルシアさんの言動に反抗し反魔王派なんて呼ばれているのに、いい人エピソードが次々出てきた。

むしろ善行しかしていなかった。

そして、そんな善行をしてきたキースさんの息子と知られたイースさんは村中で可愛がられた。

「……キースさんて、本当にどんなひとなんだろう?」

知れば知るほど分からなくなる。

善人か、悪人か。

会えれば分かるか。

イースさんの故郷に居てくれたらいいんだけど、そう簡単にはいかないよなぁ。

とりあえず、イースさんがとても歓迎されていて出発出来る様子もないので今日はこの村に泊まることにした。

村の人々が集まって、イースさんは聞いたことも見たこともない父親の話を延々聞かされて、自宅だとどんな感じかと聞かれて「幼い自分と母を置いて失踪しました」とは言えずに口籠っていた。

「キースさんの人物像がどんどんいい人になっていくんですけど、幼いイースさんと奥さんを置いて失踪して、異世界から新魔王召喚しちゃうむちゃくちゃな人で、平和的なカルシアさんを認めない反魔王派なんですよね?」

「お会いしたことないとは思うのでなんとも言えませんが、そのはずなんですよねぇ」

次から次へと出てくるキースさんの善行エピソードに、カルシアさんと共にこれなら平和的に問題を解決できる気がしますねと言い合った。


まあ、いくら善行エピソードが村人から出てきても反魔王派が魔王相手に穏便にすませられるはずがないよね。


東へ、ずっと東へ歩いてきてとうとうイースさんの故郷へと辿り着いた。

イースさんの帰郷を街の人々は歓迎してくれて、道中で購入したイースさんのお母さんにお渡しする手土産以外にたくさんの物を持たされた。

この食材は今晩のご飯にでも使っていただこう。

たくさんの人々に話されて、どこか嬉しそうなイースさんに、例えキースさんの情報がなくても寄って良かったなと思えた。

人々から解放されてしばらく歩いて街の外れの方にあるイースさんの自宅にようやく来た。

「ここが僕の家です」

紹介されたイースさんの家は素朴でこの街に合っていた。

「母さん、ただいま」

言いながら扉を開くと、穏やかな声が出迎えてくれた。

「おかえりなさい、イース。皆さんもリード家へようこそ!」

いきなりの訪問のなってはいけないよう、数個前の街から行くことを手紙に書いておいたのだ!

「これ、お土産です」

「まあまあ、ご丁寧にありがとうございます」

ぺこりとお辞儀をするイースさんのお母さんにこちらこそお世話になりますと頭を下げた。

イースさんのお母さんは朗らかな、おっとりとした感じの優しそうなお母さんだった。


「ちょうど主人も帰ってきているところなんですよ」

嬉しそうなイースさんのお母さんの一言で、その場が固まった。

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