勇者とは、さもありなん

第24話

魔族の領域から出てイースさんの父親でありハヤトさんを新魔王にしたキースさんという魔族を探すことになった。

……思ったんだけど、新魔王を召喚するぐらいなんだから反魔王派じゃない？

カルシアさん居て大丈夫？

ていうか話聞いてくれる？

いやでも人間であるイースさんのお母さんと夫婦として多少なりとも過ごしてくれる優しさがあるんだから対話できるよね！アルテさん信じてる！！

そんなこんなで再び旅暮らしの街や村で聞き込み作業。

でもそもそも魔族が魔族として人の世界で暮らしていないよね～。

手掛かりがイースさんに似ているという以外ない。

本当に雲を掴むかのような話だ。

「なんか…俺のせいで本当にすみません」

ハヤトさんは事ある事に謝るが、彼は巻き込まれた被害者なんだから謝らないでほしい。

「気にしないでくださいよ！キースさんを見付けてあなたを元の世界に戻して世界を平和にしたいだけですから！」

「いやいや！充分大変なことですよね！？」

言われるが、正直なところ魔王であるカルシアさんをもう少し説得して和平の道に持ち込めればいいんだ。

ただ、カルシアさんが諦めてしまっただけで。

カルシアさんは押しに弱くて食堂のメニューもお勧めしか頼めないしぐいぐい押せばなんとかなりそうだけど、一度決めたら曲げないことが分かった。

意外と意思が強い。

そんなカルシアさんがやりたいと思った和平を諦めるほどに世界は難しいのかもしれない。

魔王にだってなりたくなかった優しいひとなのだ。

居たくない玉座に座っていたとき、カルシアさんは何を思っただろう？

でも、あの時の魔族は性格もなにもかもが悪かったけど、カルシアさんは優しい。

魔族にもいろいろな性格がいると人間側にも知ってもらえればいいな。

そのためにはどうしたらいいか。

魔族のカルシアさん側だけに負担を強いちゃだめだ。

人間の意識も変わらなくちゃ。

…けど、どうやって？

魔族も魔物も恐れてきた人間の意識なんてそう簡単には変わらない。

ナッツ達のいた街は貧富の差があったけれど、同じ人間だからまだ分かり合えた。

けど、種族が違えば？

そんなこと、たいした問題じゃないと半分魔族のイースさんと魔王のカルシアさんを見ていると思うけれど、知らない人は恐れるばかり。

一体どうしたらいいのかな？

「大丈夫ですか？」

考え込んでいたらしく、ハヤトさんに訊ねられた。

「大丈夫です！ちゃちゃっとキースさん探して元の世界に戻っちゃいましょう！」

にへっと気の抜けた笑いをしたけど、ハヤトさん曰く、空気を読まないとやっていけない日本人として気になることがある、何か悩みがあるのでは？とのことだ。

なかなかに鋭い。

それに、空気を読まないとやっていけないって大変なんだな、日本人。

いや、こちらの世界でも空気を読まなきゃいけないんだろうけど。

なんなんだろうね、あれ。

でも、異世界人からの視点からで得られるものがあるのでは？と、思っていることを吐き出した。

「異世界あるあるですね！」

この場合の異世界はこちらの世界のことだろう。

ハヤトさん曰く、ハヤトさんの世界では魔王が主役の物語が人気があるらしい。

魔物が主役だったり、普通に人間と暮らしたり、番になったりするものまであるらしい。

「すごいですね…」

ハヤトさんの世界では魔族も魔物も魔王もいないのに、空想の世界だけでそんな物語が紡げるのか。

そして、それを楽しむ人達がいる。

存在しない、あり得ない世界観だから楽しめるのかもしれない。

それでも、なんだか実現できる気がしてきた。

「ありがとうございます！ハヤトさん！私、もっと頑張ってみます！」

「いや、アルテさんは頑張りすぎな気がしますよ。みなさん仲間なんですよね？本当は俺よりも仲間に話をした方がいい気がします。一人で抱え込むのは良くないですよ」

へらりと私が笑って言えばハヤトさんもへらりと笑って言う。

そうだ。私達は仲間だ。

アデリアさんもイースさんもカルシアさんが魔王って知っていても態度を変えなかった。

私一人でなんでもやろうとしてしまうけれど、それは私の悪い癖なんだろう。

もっと、もっとみんなを頼ろう。

なんてったって託宣で選ばれた仲なんだから！

……カルシアさんは違うけどね！

「と、いうことで魔王をやりたくないって言うカルシアさんが魔王をやめられて魔王制度とかなくしても魔族や魔物が人間を襲わなくて人間も魔族に理解を示してくれるようないい案募集中です！よろしくお願いします！！」

一般人の前では言えないので野営の夕食時、勢いよく頭を下げたがみんな無言だった。

最初に口を開いたのはやっぱりカルシアさんだった。

「そうなったら理想的とは思いますが、先日も申し上げた通り、それをするには我々は殺し合いすぎました。魔王制度の廃止も…纏める者がいなくなると余計に暴走の恐れがあります」

「いやでも今も反魔王派とか作られちゃっていますよね？」

カルシアさんの言葉に言い返すとカルシアさんがいじけた。

「そうですね…どうせ人望のない魔王ですからね……」

「そこまで言ってませんよ！大丈夫です！少なくとも魔王城いた魔族はカルシアさんのことに従ってたじゃないですか！」

精一杯魔王の人望を励ます勇者の図なんて今代限りじゃないだろうか？

「カルシアさんの言う通り、理想論ですね。大体の魔族は悪質な性質で出来ている。カルシアさんが異質なだけですよ」

「そうですよね…私なんて魔王なのに魔王っぽくないし全然異質なんですよね……魔王らしさってなんなんですかね？」

「カルシアさが魔族的な魔王になったらこんな話できないじゃないですか！カルシアさんはカルシアさんでいいんです！自信を持ってください！！」

「でもさ、アルテには悪いけどそれは相当難しいよ。第一カルシアさんがどうこう思おうと反魔王派とかってのがいるんでしょ？そいつらをなんとかしなきゃ難しいよ」

アデリアさんの言うことも一理ある。

反魔王派とかっていうカルシアさんのことを快く思っていない魔族をなんとかしなくちゃいけない。

なんとかってどうすればいいんだ？

全員倒すのだと武力で制するのと同じだ。

これは私の思う勇者じゃない。

「反魔王派にもボスがいるんじゃないんですか？それこそ、俺を召喚したキースって魔族とか。集団の中で一番偉そうでしたよ」

ハヤトさんの一言に全員振り向く。

「やっぱり、キースさんを探さなきゃどうにもならないってことか」

「……父がご迷惑をお掛けして本当に申し訳ありません」

「私も、魔族にも見下されて魔王失格で申し訳ありません」

イースさんとカルシアさんが沈痛な面持ちでへこみにへこんでしまった。

「わ、私だってこんな我儘ばかり言う勇者っぽくない勇者ですみません…！」

そうだ、全部私の我儘だ。

三人揃って頭を下げるのをアデリアさんが髪をぐしゃぐしゃになるまで撫で回す。

「そんなこと、言ってても仕方ないじゃん！イースはイースで、カルシアさんはカルシアさんで、アルテはアルテだよ！とりあえず、キースって魔族を探してから考えよう！」

さすがは我らのアデリアさん…！頼れる姉御…！

「アデリアさーん！」

「よーしよしよし！」

抱き付くと犬にするみたいに撫でられた。

「でも、そのキースが見付からないから苦労してるんですよね」

ハヤトさんの言葉で全員がまた無言になった。