第23話

「さて、久々に魔王っぽいことしましょうか」

カルシアさんが心なしか楽しそうだ。

「逃げ回ってきましたが、魔王としての責任を果たそうと思います。今から魔族が一斉に来ると思うので、皆さん私から離れないようにしていてください」

そう言われたのでみんなでカルシアさんの周りに集まった。

と、いうかカルシアさんは魔王としての人望がないから下剋上されたり異世界から新魔王を呼ばれたりしているのに平気なんだろうか?

「魔王が命じます。この城にいる魔族は全員ここに集まってください」

カルシアさんがそう言うと、謁見の間には魔族が埋め尽くされていた。

すごい!ちゃんと命令は聞くんだ!

「皆さんにお尋ねします。こちらの人間を異世界から召喚した方はいらっしゃいませんか?」

カルシアさん…部下に対しても丁寧なところが魔族から見下されるのでは?

いや、いい人なんだしいいことなんだけどね!

魔族とは多分文化が違う。

カルシアさんからの質問には誰も答えない。

やばい。やっぱり倒した魔族の中にハヤトさんを召喚した魔族がいた?

城の外にいるだけ?

不安に汗をかいていると一人の魔族がカにルシアさんの前に出た。

「恐らくですが、そちらの人間を召喚した者は現在城の外に出ているかと」

やっぱり城の外か…。探すの面倒そうだな。無事に見付かるといいけど。

「どちらに行ったか、どのような方かお教えくださいませんか?」

「キースという魔族で、召喚したあと人間の世界に行った筈です」

それを聞いたイースさんが顔を青くした。

「もしかして、人間の姿は僕に似ていませんでしたか?」

……この流れはもしかして?

「確かに、人間の姿はお前に似ているな」

カルシアさんの前に出た魔族が肯定するとイースさんが手で顔を覆った。

「……父です」

「……やっぱり?」

「はい。そのキースという魔族は、多分僕の父です」

意外な展開来ちゃったなー。

「そのキースさんていうイースさんのお父さん、お家にいる?」

「書き置きを残して行方不明になり母と二人暮らしでした」

「じゃあ、結局探すしかないって訳か!」

アデリアさんが精一杯場の空気を変えようと明るく言う。

「そうですね……会いたくない…なんであの人はいつもいつもいつも人様に迷惑を掛けて……」

父親に思うことがあるのかイースさんから父親に対しての怨嗟の声が漏れ出るが、急にハッとした表情になりハヤトさんに謝りに行った。

「父がご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした!!」

「いや、お父さんが仕出かしたことであって君のせいじゃないから…」

イースさんからの謝罪にも怒ることなく宥めるハヤトさん、いい人だ…。魔王向いてないんじゃない?

カルシアさんといい、ハヤトさんといい、魔王の人選ミスがすごい。

私が言えた義理じゃないけど。

「それでは、皆さんありがとうございました。本日は解散で。引き続き人間には手出しをしないでくださいね。した子にはお仕置きしますから」

カルシアさんの言葉で謁見の間を埋め尽くすほどいた魔族は一斉にいなくなった。

カルシアさんって、やっぱり魔王なんだなぁ。


「それじゃ、イースのお父さんのキースって魔族を探してハヤトさんを元の世界に戻してもらう方向性でいいかな?」

「そうだね。ハヤトさんも早く家に帰りたいですよね。ご家族が心配されてるだろうし…」

私がハヤトさんに訊ねると、ハヤトさんは緩く首を横に振って「いえ、リストラされたばかりで仕事もなにもなく、一人暮らしなので心配してくれる家族もいません」と答えた。

なんだか黄昏て世知辛い様子だったので肩に手を置いて頑張れって慰めておいた。


なんだか長いようで短い旅だったけれど、召喚された新魔王を引き連れて人間の世界に出戻ることになるなんて思いもしなかったな。


「それじゃあ、キースさん探しに人間の世界に戻ろうか」


こうして、特に魔王と新魔王を倒すこともなく魔王城をあとにして人間の世界に向けてまた歩き続けた。

ハヤトさんは魔王城から出たことないらしく、おっかなびっくり歩いていた。

いや、魔王城が本来一番やばいからな?

魔王がカルシアさんじゃなかったらこんなに平和じゃないからな?

下剋上心ある魔族以外がカルシアさんの命令に忠実で良かったな!

そうは言ってもハヤトさんには魔王城以外の世界は初めての異世界だから仕方がないだろう。

とにかく、魔族の領域から早めに出たいところなのでさっさと進んでいく。

魔族と魔物はカルシアさんが素性を隠さなくなってから現れなくなったから本当に歩くだけだ。

「カルシアさん、なんかしました?」

「いいこにしてくれるようお願いしただけですよ。とはいっても、この領域内にいる子達だけですけれど。他の子は言うこと聞いてくれないんですよねぇ。反魔王派ですから。私、人望ないんですよね」

「いやいや!ここら辺だけでも抑えられているのすごいですよ!」

そのおかげで帰りはかなり楽が出来ている。

出来れば行きもそうしてほしかったな…というのは贅沢か。

あの頃は魔王なの隠していたし。

「そういえば、イースはお父さんがどこにいるか知ってるの?書き置きから手掛かりとか検討つかない?」

「幼い頃に出ていったっきりで顔もうろ覚えですね。書き置きも仕事に戻るしか書かれていなかった気がしますし…。どのような仕事をしているのかも知りませんし」

「そっかー。地道に探すしかないね」

キースという名前だけでこの世界のただ一人の魔族を探すのか…。

そもそも魔族との争いもまだ解決していない。

カルシアさんは平和的だけど、他の反魔王派とかいう魔族は悪さばかりしているし魔物に至っては指示すら従えない獣のようなものだ。

平和には程遠い。

……問題が増えただけでは?

「考えていても仕方がない!とりあえず、領域から出ちゃおう!」


そうして旅の目的が減ったようで増えて歩いていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る