第22話
そして歩き続けること数日後、辿り着いた魔王城。
禍々しい雰囲気があるものの、綺麗な花が咲いた庭園やらアンティーク調の重厚な調度品等で普通のお城と変わらない。
カルシアさんの好みだろうか?
肝心の魔王カルシアさんは隣でいかにも緊張していますという風にしているが、どうするんだろうと思いながら現れる魔物を倒しながら進んでいくと魔王の謁見の間っぽいところに行き着いた。
正直なところ、ここまでにカルシアさんが掛けた魔術が解けず人間だと思い込んでいるアデリアさんとイースさんと、魔王であるカルシアさんの実力差が不安で仕方がない。
元村人の勇者が言うのもなんだけどな!
緊張しながらお互い頷きあい万全の状態にして扉を開くと、そこには仰々しい椅子があり、人が座っていた。
もう一度言う。
人が座っていた。
人間だ。
何故、と思っている間にも魔王の玉座に座る魔王は高笑いをして喋りだした。
「よくぞここまで来たな、人間共よ!我が魔王だ!」
いや、人間だよね。
四人で呆然としてしまう。
どうしよう。この状況…。
「……あの、あなた人間ですよね」
「我は魔王だ!!」
自称魔王は頑なだった。
どうしようとカルシアさんを見るとカルシアさんもどうしようという顔をしていた。
まさか、また魅了の魔法を掛けられている人間と戦わせる気か?
魔族の意図が分からずその場に立ち尽くすしかなかったけれど、私達が沈黙して動かなくなったことで魔王もなんだかどうしようみたいな顔になってきた。
なんでやねん。
「とりあえず、魔王なんだね!」
アデリアさんが言うとイースさんが無言で威嚇の攻撃魔法を放った。
放たれた魔法は自称魔王の座る椅子の横すれすれを通り壁を貫いた。
すると魔王は顔面蒼白になり「ごめんなさい!!」と謝ってきた。
なんだこの展開。
自称魔王はつまり、現在の魔王が不甲斐ないから異世界から他の魔族が召喚して呼び寄せた新魔王ということだ。
えっ、あの村の魔族の方が強かったじゃん!!
なんでわざわざ異世界から召喚したの!?
と、思ったら魔王は人間をどうこうするつもりはないうえに行方不明になったので、現在いる魔族は魔王には力量の差から逆らえずにいたしいっそ異世界から傀儡の魔王として新魔王を召喚しようとなったようだ。
……新魔王とばっちりじゃん!!
あの村の魔族の方が下剋上精神旺盛だったじゃん!!
ていうか、魔王ってなんなの!?
そんなに気軽に扱っていいの!?
「なんだか申し訳ありません…」
カルシアさんが沈痛な面持ちで新魔王改めハヤトさんに謝罪した。
うん、まあカルシアさんが本物の魔王だしね!
ハヤトさんは「こちらこそ調子に乗ってしまい申し訳ありませんでした」と90度の謝罪をした。
いや、本当にハヤトさんが謝る必要ないんだけど…。
事情は分かった。
結論としては、ハヤトさんを魔王城には置いておけないということになった。
無関係な巻き込まれ一般人だしね。
「どうします?一番近い村まで戻って置いてもらいます?」
「魔族が召喚した新魔王を?」
私達が案を出しあってハヤトさんをどうするか話し合っているとハヤトさんから提案が出た。
「……あの、しばらくこのまま着いていったらダメですか?こちらの世界で生活出来る自信がないので……」
提案されても困惑するばかりだ。
ただでさえ魔王不在…というか隣にいるのに。
というか、カルシアさんはどうするつもりだろう?
「カルシアさん、どうします?」
私がカルシアさんに訊ねるとアデリアさんが反応した。
「なに?カルシアさんが魔族で魔王って話?」
「それならとっくに知っていましたが?」
アデリアさんとイースさんが意外なことを言う。
「知っていたんですか!?」
「僕も半分は魔族なので…」
「あ、私も途中から気付いてた!」
はーい!と、アデリアさんが気軽に手を挙げる。
結局全員カルシアさんが魔王だって気付いていたんじゃん!
誰だよ!気付いていないって言ったの!私だよ!!気付いていたよ!!
「魔王だって気付いていながら、何故一緒に旅を続けてくれたんですか?」
カルシアさんの純粋な疑問だった。
「最初は魔王なんて気付かなかったけどさ、気付いた頃にはカルシアさんが好きになっていたし特になんにも実害がないから別にいいかなーって!」
「僕も、半分は魔族なので本能で逆らえなかったんですけど、まぁ、カルシアさんなら悪いことしないだろうな、と」
勇者だとか魔王だとかいっても、所詮はそんなもんかもしれない。
私とカルシアさんは見詰め合った。
「そう、ですか…そうなんですか…」
カルシアさんの肩の力が抜けるのが分かった。
「みなさん、ひとがいいですねぇ」
ふふふ、とカルシアさんが微笑む。
なんだかほんわかした雰囲気だったのにハヤトさんがぶち壊す。
「えっ!?この方が魔王なんですか!?魔王いるならなんで俺が召喚されたんですか!?」
「あーーー…」
説明がめんどくさい。
「申し訳ありません、ハヤト様。私が不甲斐ないばかりにあなたにまでご迷惑をお掛けしてしまったようで…。召喚主しか召喚者を返喚出来ないので、あなたを召喚した魔族についてお教えくださいませんか?返喚させるように言いつけますので」
召喚ってそんなシステムになっているのか。知らなかった。
「ええと…魔族って言っても喚ばれた時に複数いてどいつが喚んだとか自信がないんですけど…」
「それは困りましたね…。せっかく久々に城に戻って来ましたし片っ端から呼び出して尋問でもしましょうか?」
首を傾げて言うも内容が物騒だ。
「カルシアさんが物騒なことを!」
「ですが、それしか方法がありませんし」
魔王してるカルシアさんも興味があるけれど、魔族に囲まれる場面はぞっとしない。
「ここに来るまでに魔族も倒しました。万が一、倒した魔族にハヤトさんの召喚者がいたらどうしますか?」
「その場合は一生涯こちらで暮らしていただくしかありませんね」
カルシアさんの無情な一言にハヤトさんから情けない弱音が出る。
「そんなぁ!無理矢理魔王にさせられて帰れないなんて!なんとか探してください!お願いします!!」
私もカルシアさんも望まぬ立場に置かれた身だ。
ハヤトさんのことも理解できる。
「こうなったら今度は魔族探しに魔王城を探索しますか!」
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