第21話

ほんの数日間いただけなのになんだかとても長くいたかのような街から出てまた魔王城を目指して歩いていく。

そろそろ人間が入ってはいけない指定区域になる。

そうしたら、もう魔族の領域だ。


明確な境界線は目に見えなくても分かる。

漂う魔力の質が違う。

「じゃあ、行こうか」

いっせーのでみんなで境界線に入り込んだ。

……特に変わったことはない。

「特に異変とかはないですよね?」

一応確認しておくがみんな頷く。

「それじゃあ、魔王城に向かって元気よく行きましょうか!」


とは言ったものの、やはり魔族の領域だけあって魔物も魔族も多い。

けれど、あの魔族よりは大半が弱かった。

やっぱり人間の街を餌場にして糧を得ているって言っていたのは本当だったんだな。

それか思った以上に私達が強くなったか。


「今日はここまでにして、夜営の準備しましょうか」

イースさんの提案に全員賛成した。

数が多くて疲れた~。

「じゃあ、夜営の準備班と食材集め班とで別れようか」




私とカルシアさんが食材集め、アデリアさんとイースさんが夜営の準備の二手に別れて作業をすることになった。

…ちょうどいいや。もうそろそろ聞かなきゃって思っていたしね。

「ちょっとサボってお茶にしませんか?」

私の提案にカルシアさんは困った顔をしつつも了承してくれていつもの美味しいお茶を淹れてくれた。


「この世界にとっての本当の幸福ってなんだと思います?」

突然の質問にカルシアさんは瞬きを繰り返す。

「本日のアルテさんは哲学的でいらっしゃいますね」

のんびりとお茶を飲む時間は嫌いじゃないが、聞いておきたいことはあるので後回しにする。

「せっかく魔王が目の前に居るんだから聞いておこうと思って。カルシアさん、あなたのような魔王にとって、魔族にとって幸せとはなんですか?」

「長いこと旅をして来て今更聞きますか?」

カルシアさんはため息を吐いた。

「私が魔王だって、いつから気が付いていました?」

「初対面からです」

あ、この人魔族だなってすぐに感じて、魔族と敵対する度に魔族というものや魔力の質が分かってきて魔族のカルシアさんへの攻撃や態度で段々と理解した。

そもそもの魔力量が他の魔族より桁外れだ。

逆に人間側はなんで気が付かないんだとすら疑問に思った。

「魔術で皆様には私が人間で賢者であると思い込ませていましたから。ちなみに託宣で本当に選ばれるはずだった本物の賢者はとある国の学校で教師の道を進んでいます」

私の内心の疑問を読んだようにカルシアさんが答える。

「アルテさんは本当に不思議な方ですねぇ。だからいつもつい殺しそびれてしまいます」

「殺される前に殺しますよ。今はもう殺したくないですけど」

お茶を飲む。

あ、いつもよりいい茶葉だ、これ。

「それでですね、本題に戻りますがこの世界の幸福ってなんなんですかね?人間と魔族、切った切られたで永遠に終わらない戦いを繰り返している。私は、私が勇者になった意味はこの戦いを終わらせることだと思っているんです」

烏滸がましいかもしれないが、と前置きしてカルシアさんの目を真っ直ぐ見る。

「だって、多分、私以外の勇者は戦いたくないなんて思わないじゃないですか。今までの歴史から見ても。もう、終わり時だと思うんですよ、お互い」

私の言葉にカルシアさんは微笑む。

「そうですねぇ。私も終わらせたいんです。元から私達には戦う意思はありませんでした。ただ人間側が人間ではないというだけで手出しをしてくる。その応戦から現状に至りました。ですが、もう止めましょう、そうですね、で終われる時は過ぎ去りました。私達はお互いに殺しすぎました」

カルシアさんの言葉と笑みの真意を探る。

でも、真意なんてなくて、これが本当のことなんだろう。


「もう無理ですかね」

「無理、とまではいかないですが、私も終わらせたいんですけどね。なかなか上手くいかないんですよ。私、魔王なのに」

「それを言うなら私だって勇者なのに上手くいかないことだらけですよ」

お互い小さく笑う。

「本当は、魔王にだってなりたくなかったんです。闇魔法より何故か魔族は使えないはずの光魔法が得意ですし」

「私も、村人からの勇者なんて無茶振りやりたくなかったですよ」

二人で大笑いだ。

「結局、向いてないことを出来ないままやり続けてしまいました」

「そうですね。私もそう思います。でも、カルシアさんが魔王で良かった」

私の言葉にカルシアさんが怪訝そうな顔をする。

本当に、こんなにチャーミングなのに魔王なんて世も末だよな。

「『殺しに慣れることなく、魔王も倒さず、平和にしてみせよう。』私が付けた、託宣の意味。カルシアさんが魔王なら、出来そうな気がします」


この戦いが、私達の次の世代に引き継がれなければいい。

戦うのも、辛いのも、しんどいのも、私達で終わらせたい。


「私は、私も魔王ですけど、この世界が大好きなんです」

甘いとか馬鹿だとか言われてもいい。

私は、カルシアさんのこの言葉を信じたい。


「食材集め、再開しますか」

「そうですね」

休みの時間は終わりだ。

今の会話で得るものはたくさんあった。

この戦いを終わらせられたらいいなと思うのは、やっぱりカルシアさんも同じだと分かって良かった。


この戦い、終わらせてみせたい。

それがきっと私が『勇者』になった意味なんだから。

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