第17話
整備しつつなんとかやって来たけど、苦労して手に入れた武具も限界が来そうだという話が出た。
確かに、自分達で整備をしてきたが切れ味も悪くなっているし、手入れが出来るものは手入れをして新調した方がいいものは新しくしようという結論に達した。
愛着があるけれど、消耗品だし仕方がない。
胸部を覆う鎧もあと数回受けきれるかどうかだ。
剣も本職に研いでもらいたい。
次の大きな街で鍛冶職人と武具店を探そうと話し合った。
……また無茶振りされたらどうしよう。
そのままいつも通り歩いて魔獣が出たら倒しての繰り返しだった。
殺しに慣れたくないと思っていたのはもう遠い昔に思えてくる。
魔王の城に近付くにつれて魔獣も強くなってくるし魔族も時々現れる。
けれど魔族はこちらをからかう程度で本気で戦いには来ない。
魔王の命令なんだろうか?
だとしたらやっぱり魔王との和平は可能なんだろうか?
……あの時の魔族とはまだ出会わない。
出会ったら、今度こそ倒す。
それはみんな同じ気持ちだと思う。
三日間、野宿と徒歩と乗合馬車を乗り継いでようやく目的地の街に辿り着いた。
大きな街で、アルセフォン王国を思い出す。
ここも立派な街だなあと感心していたのは最初のうちだけだった。
ここは貧富の差が激しすぎる。
まず、街が三段階に上下に別れていて、普通の旅人や住人が出入りするのは真ん中の平民街のところにあった。
上は富裕層が住む区域で、入るには門番の許可がいるらしい。
下の貧民街からは異臭がしていて、誰もが常に餓えている。
貧民街出身者を雇うところもありはせず、金銭と食べ物に困り貧民街出身者からの犯罪も多いと道中聞いていた。
金持ちのみが利益を得て楽をし、貧民街に堕ちた者は這い上がることが出来ずに搾取されるか犯罪に手を染めて生き延びるしかないそうだ。
数年前の流行り病の時にも貧民街にはなんの保証も医療の手当てもされず、次々死んでいって数も減ったが、その時の恨みから平民以上の人間を恨んでいるらしい。
だけど、それは正当な怒りに感じた。
犯罪に手を染めるのは確かにいけないことだが、この街の人間は貧民街の人間を人間としてら扱っていない。
なんなら、そこら辺の野良猫の方が許されているかのようだ。
貧しいからと差別され、そのまま這い上がることも出来ずに燻っているなら、いずれは爆発しそうだなとも思った。
村では、親がいない子供はみんなで面倒を見たし、困ったことがあれば助け合ってきた。
こんな明確な境界線はなかった。
私は田舎者だから慣れていないだけで、アデリアさんもイースさんもカルシアさんも平然としていた。
それが普通なんだろうか?
他の大きな街でもこんなものなんだろうか?
でも、アルセフォン王国では貧富の差はあれどここまでの境界線はなかったな。
あれは歴代の国王陛下の施政で誰もが平等な立場でいるだけで、国が違えばこうも違うのか。
そういえば、自国も王都なんて託宣を受けた時に一度踏み入れたくらいで、物陰から誰かが見ているような感じだった。
あれもこの街の貧民街の住人のような人達なんだろうか?
そう思いながらどうしようもなくこれはこの街の問題だと割り切ろうとし、商店も平民街に集まっているので無心になろうとそのまま平民街を歩いていく。
雑談をしながら歩いていればこの憤りも落ち着くだろう。
富裕街には富裕街の住民しか住めないし入れないらしい。
つまりは私達とは無縁ということだ。
確かに立派な建物の数々が頭上に見えた。
人を見下して生活するってどんな気分だろうか?
とことこ歩きながら武具店や鍛冶屋を覗いて回っていると「スリだ!」と、大きな声が後方から聞こえた。
そのまま横を走っている少年を思わず捕まえた。
「離せよ!!」
「いやいや、悪いことをしたらごめんなさいしようね」
暴れる少年を押さえているとイースさんが少年の懐から数個の財布を取り出した。
「お一人で持つには随分な量ですね」
そう言っている頃には財布を取られたおじさんも私達のところまで汗をかきながらやって来た。
「捕まえてくださってありがとうございます!」
「いえいえ、ちなみにどちらのお財布でしょうか?」
数個の財布をイースさんが差し出し尋ねたらおじさんはひとつの財布を選び取り、顔を真っ赤にして怒りだして少年の頬を殴った。
「こんなにたくさん!これだから貧民街の連中は!旅の人、ありがとうございました。こいつは警備隊に差し出してきます」
「いやいや、スリは悪いことだし警備隊に差し出すことも異論はないですけど、殴る必要はなかったんじゃないですか?君、大丈夫?」
殴られて倒れた少年を起こすと、また逃げ出そうとしたので捕まえた。
ふっふっふっ、子供の頃はかくれんぼと鬼ごっこで無敵だったアルテさんから逃げられると思うなよ!
「警備隊には私から差し出しておきますよ」
にこにこ村人平凡顔で無害アピールしておく。
「それじゃあ、我々はこれで失礼しますね」
カルシアさんもにっこり笑えばおじさんはデレッとしてた。
なんでや。アルテさんの時もデレッとしてよ。一度もされたことないけど。
そのまま暴れる少年を連れて「貧民街の出入り口ってどこ?」と訊ねれば不思議そうな顔をされた。
「警備隊に差し出すんじゃないのかよ」
「そのつもりだったけどねー。殴られたら謝罪差し引いても無罪…にはならないけどね!二度とやらないようにね!他のお財布は拾ったことにして警備隊に渡しておくけどね!」
殴られたらもう謝罪はいいだろうと思うけど犯罪はよろしくないよ!
「……貧民街で生きるやつがどうやって食い扶持稼げばいいんだよ」
「働けばいいじゃん」
これまでの街の状況を見てもそう言ってしまう。
現に、見るからに貧民街の少年を連れている私達まで平民街の人達からヒソヒソされている。
「貧民街出身者を雇ってくれる酔狂なところなんてあるもんか」
少年が力なく呟く。
何度も同じような扱いを受けてきたんだろうなと思った。
これは思ったより街の区別化が深刻だぞ。
かといって単なる元村人勇者に何が出来るだろうか?
いや、勇者以前にアルテとしてどうしたいか。
そこで少年のお腹が盛大に鳴った。
「貧民街の人達ってさ、みんなお腹減ってるんでしょ?」
もうじき昼時だ。
「アルテの気持ちも分かるけどさ、こういうことは一度の気休めでどうにかなる問題じゃないよ」
一国の王女として、他国とはいえここまでの民の差別化に思うことがあるだろうにアデリアさんが正論を言う。
「分かってはいるけど、一度くらいはやらせてくださいよ」
言うとイースさんはため息をついた。
「……この財布を警備隊に渡しながら食料の買い出しをしてきますね」
最近のイースさんは私に対する物分かりがいい。
カルシアさんも笑顔で頷いた。
アデリアさんは「仕方がないなぁ」と、いつもとは三人の立場と逆転して納得いかなくても飲み込んで私達の無駄かもしれない行いを許してくれた。
少年だけはまだ把握しきれていないようで頭にはてなが飛んでいた。
そんなこんなで貧民街で炊き出しをすることにした。
幸い、広場みたいな開けた地区があったので、そこで料理をし、購入した大鍋をかき混ぜる。
「はーい!どうぞー!美味しいですよー!多分!」
多分の一言で雑炊を貰った人がぎょっとしたが、料理をしたのはほとんどイースさんとカルシアさんなので安心どころか美味しいだろう。
しばらくは不信がっていたり誰も近寄らなかったが、捕まえていた少年に食べさせると他の子供も寄ってきて、大人もわらわら集まってくるようになってきた。
……足りるかなあ?
そんな心配をしつつ雑炊を配っていると貧民街を纏めるという人物が現れた。
貧民街の主はなかなかのイケメンだった。
まだ年若い青年が、この人数を束ねるには相当な苦労がいるだろう。
青年が現れると、手伝っていてくれていた少年が飛び出して「兄ちゃん」と言って青年に抱き着いた。
えっ?兄弟?
少年が青年の耳元でなにやら喋り終えると青年はこちらに歩み寄ってきた。
「弟が世話になったそうだな。警備隊に差し出さなかったことは礼を言ってやる」
なんとも上から目線である!
イースさんより年上っぽいけど見るからに未成年でしょ!?
成人しているアルテさんを敬え!
「旅のもんが、これだけ人を集めて炊き出しなんて何をやってるんだ?何が目的だ?」
うん。普通はそう思うよねー。
「何も考えてませんでした、やりたかったからやりました」
事実なのでそう伝えた。
「……バカなのか?」
うーん!失礼!!
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