第16話
アルセフォン王国を出てしばらくすると村が見えた。
この先にもうひとつ村があるはずだから宿はそちらで取って、ここは素通りしようとのカルシアさんの提案により素通りするはずだった。
するはずだったのだが、前にどこかの村で見掛けた偽勇者パーティーがいた。
「あの方達、こんなところでも勇者を騙っていますよ」
イースさんがうんざりしているが、今回はちょっと悪いことに、旅の路銀を村人から求めていた。
村人は勇者様のお力になれるのならと僅かばかりの貯えから金銭を差し出していた。
これはいけない。
「これはさすがに止めなきゃね」
「ですが、偽勇者である証明はどうしますか?本物はコレですし、正直託宣で言われた以外に勇者の証明なんてしようがありません」
「コレってなんですか、イースさん。コレって」
プンスカ怒る私を宥めつつアデリアさんが尋ねてくる。
「アルテ、なんか勇者パワーみたいなの出せる?証明出来る?」
「勇者パワーてなんですか?アデリアさん」
「つまり、証明は不可能ということですね」
カルシアさんがため息をついた。
「ここで勇者が村人から路銀をせしめる等という悪評が立っては困ります。なんとか彼等には困った行いを止めていただかなくては…」
カルシアさんがおっとりしつつも困った表情でいる。
いつも私達の言動で困ったような顔をよくするが、これは本当に困った時の顔だ。
「やっぱ勝負を申し込んで、負けたらもう名乗らないって証文を書いてもらう?」
アデリアさんの提案は最後にしたいな。
でも、特にいい案もない。
「いっそ、あの村人達の前で『私が勇者です!そいつらは偽物です!騙されないで!』って言ってくる?」
イースさんとアデリアさんとカルシアさんはちらりと偽勇者パーティーを見てから首を横に振った。
だよねー。向こうの方が筋肉隆々で勇者っぽいもんねー。
アルテさんも筋トレがんばってるんだけどなー。世の中が憎い…。多分、アデリアさんがくれるお菓子と相殺されている…。
今も慰めるためにビスケットを別けてくれた。
アデリアさん、いつもどんだけ持ち歩いているんですか。もぐもぐ。
結局くるくるくるくる頭を回しても、何のいい案もない。
そもそも勇者の証明ってどうすればいいんだ。
何をしたら勇者なんだ。魔王を倒したら?
なら、魔王に和平を申し込みたい私はやっぱり勇者じゃないんじゃないかな?
……そうだよ。勇者の前に単なるアルテで在りたいって、言ったばかりじゃん。
『勇者』に惑わされていつも忘れてしまう。
「すいませーん!私が本物の勇者で、その人達は偽物なんですけどー!」
にこにこ笑いながら偽勇者パーティーと村人の輪に近付いていく。
私自身が勇者である前にアルテとして存在するなら、偽物をなんとかしようとするなら、こうしている。
アデリアさん達はぎょっとしていたが、もう話し合いで解決、出来なければ本当に最終手段にしたかった戦いで決着しかないよね。
平凡ながらも多少武装した村人が近付いてきたくらいにしか思われなかったんだろう。
偽物達には大爆笑された。失敬な。
「夢は夜に見るものだぜ」
なんて言われてもこちらにも矜持がある。
託宣で勝手に勇者と言われてムカついていても、他の誰かが勇者として名乗って、更には悪事までしていると余計にムカつく。
「夢じゃないこと、証明しようか?」
私が言う頃にはアデリアさん達も横並びで揃ってくれた。
偽物達はまた大笑いした。
「こんな女子供が勇者パーティーなんて語るもんじゃないぜ!」
「私もなんでかなって、思うんだけどね。世の中ってままならないよね」
「力こそパワー!パワーこそ力だ!!俺達が偽物だと言うなら力で証明しろ!!」
あっ、やっぱり見掛け通りの脳筋タイプでしたかー。
やっぱりねー。こうなっちゃたかー。
挑発してみたものの、出来れば戦わずに穏便に済ませたかった私達とは反対に、相手は力での勝負を望んできた。
結局、偽勇者パーティーとの全面対決になった。
そしてなんか村起こし扱いされて出店らやなんらやが出ている。
村長さんが対決するなら準備をするからちょっと待ってくれと言ったのはこれか。
平和なんだか、よく分かんないな。
でも、こうして戦いが見世物にされているのは平和な証だろう。
四人対四人、一人ずつ相手していけばいいかな。
そう思っていると、村長さんがゴングを鳴らした。
なんであるんだそんなもん!
「弱い!!!」
偽勇者パーティーはびっくりするほど弱かった!
えっ、あんなに筋肉隆々なのに!?当て身一発で再起不能なの!?
各々の相手も一発で倒れてしまった。
こんなに弱くて「力こそパワー!パワーこそ力だ!!俺達が偽物だと言うなら力で証明しろ!!」とか言ってたの?
勇者パーティーの名前騙るならもう少しマシな実力で騙ってくれよ…。
なんかこう…戦いの実況すらする暇なかった。本当に一瞬だった。
こいつら今まで魔物に遭遇してたらどうしていたんだろう?
「おお!やはりあなた方が本物の勇者様でしたか!」
いや、思いっきり騙されてたうえに私達が本物の勇者パーティーですって言ったら「えっ?こんな貧弱そうなのが?」みたいな顔してましたよね、村長。
ころころ意見も風見鶏。
本当にこの村は平和なんだろうな。
ここから先はどんどん魔王城に近付いていくはずなのにな。
魔王が腑抜けって言われていたのと関係あるのかな。
とりあえず偽物達には集めた路銀を返金させて、村で農作業に従事することで手打ちになった。
さて、また魔王城に和平を申し込む旅を続けるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます