第15話
ドラゴンの巣まであと少し。
寒さが半端ない。
ドラゴン、なんでこんなところに巣なんて作った。
吹雪の中、小さいながらも洞窟を見掛けたので暖と休息を取ろうと急いで入った。
持ってきておいた、たき火用の木に魔法で火を着けてみんなで丸まって暖まる。
「暖かい!寒い!!死ぬ!暖かい!生きる!!」
「アルテさん、やかましいです」
「イースさんも顔が真っ青ですよ。もっと暖まった方がいいんじゃないんですか?」
ぐいぐいイースさんの方を押していく。
「イースさん、ドラゴンと話すことって出来ます?」
「さあ?意思の疎通をしようと思ったことがないので。前回は戦って勝つことが前提でしたし。…なんで、僕ならドラゴンと対話出来るって思ったんですか?」
怪訝そうな顔をされつつ、ぐいぐいと押し続ける。
「イースさんだけじゃなくて、イースさんかカルシアさんならなんとかなりそうだなぁって」
「私もですか?」
カルシアさんが目をぱちくりさせる。
今、言っていいのかなぁ。
でもドラゴンと対話出来るならそれに越したことはない。
不要な命を取る必要はない。
「ああ、もしかして」
カルシアさんが両手をポンッとついて「イースさんが半分魔族だって話ですか?」と事も無げにいう。
イースさんはギョッとした顔だけど、頷くと「アデリアさんも気がついていますよね」と聞けば「まぁね」と答えてくれた。
「なんで、分かって…」
その続きはなかった。
なんで分かって側にいるのか、なんで分かって敵として倒さないのか、訊ねたいことが何かは言ってくれなかったから分からない。
「だから、魔族もきっといいやつがいるって思ってたんですけどね」
あの村の魔族は、一番最悪な部類の魔族だった。
イースさんが思い出したのか防寒着を強く握る。
でも、イースさんが魔族と縁があると気付いたのもあの魔族のおかげだ。
何となく、魔力の質が違うかな程度に感じていたものは魔族のものだった。
でも、それでもあの魔族とイースさんは違う。
……自分以外の魔族と対面して、あんな凄惨な結果になってしまって、イースさんはどう思っただろうか。
イースさんは居心地が悪そうにしていたので、またもぐいぐい体をイースさんに押し寄せる。
「私が勇者である前に単なるアルテのように、イースさんも単なるイースさんですよ」
言うと、イースさんは「そうですか」と答えて俯いた。
半分魔族ということで色々あったかもしれない。
けど、私は、私達はイースさんがすきだから半分魔族だとかは関係ない気がする。
一度、お互い暖まった体で押していた体が押し返された。
イースさんは素直じゃないな、なんて大人振りながら燃える火に暖まった。
「さーて!体も暖まったし!そろそろドラゴンと対面しますかー!」
なんでドラゴンと対面するのにそんな元気なんですか、アデリアさん。とは言わない。
だってアデリアさんだもん。
「街を襲っていないなら何故いるかの様子見だけでもいいんですよね」
「うん。うちの国もドラゴン相手に戦いしたい訳じゃないからさー。なんで今まで生息しなかったドラゴンが急にあんなとこに巣作りして居座ってるのか分かって人間に害を為さなければいいんじゃない?」
それならまだ気が楽だ。
殺さなくていいなら殺さない方面でいきたい。
火を消して洞窟から出た途端また寒さで凍りそうになる。
「ドラゴン、なんでこんなとこにいるんだろうな…。いつも見掛けるの平原とか洞窟とかじゃん…。こんな寒いところにいて平気なものなの?」
「ドラゴン種は謎も多いですからねぇ。雪山で巣作りするドラゴンが現れても不思議ではないような」
カルシアさんがおっとり言うが、寒さで凍えそうな身としては本気でドラゴンと戦いたくない。和解したい。体を動かしたくない。
ぶつくさ文句を言っても歩く足は休めないアルテさんえらいな!
自画自賛しなきゃやっていられない状態で察してほしい。
山頂付近に辿り着くと確かにドラゴンがいた。
様子を見るとドラゴンの巣には、卵があった。
いや絶対飼育環境に適していないだろうとは思ったが、これで次々ドラゴンが繁殖していくとなったら話は別だ。
いつ麓の村に下りてきて近隣住民に害を為すかもしれない。
ここで倒して可哀想だが卵も潰さなければならない。
足場は悪く、あの巨体を相手にするには分が悪いと思っているところへイースさんが前へ出てきた。
「ドラゴンと対話出来るか、やってみます」
「イースさん、いいんですか?」
「無益な争いは避けたいんでしょう?」
一歩ずつドラゴンに近付いていく。
「やってやれないことはない、と言いそうな馬鹿がいるので、やってみることにしただけです」
明らかにこちらを向いて言ったが、多分これはイースさんが魔族の部分の自分を認める行為だろう。
私達は黙って見守ることにした。
ドラゴンがイースさんに気付き近寄ってきて、そのまま宙に浮いたままイースさんと目を合わせて動かなくなってしまった。
対話出来ているんだろうか?
お互い目を合わせたままでいるかと思ったら、ドラゴンがひらりと空中を舞った。
やっぱり戦闘になるのかと身構えると、イースさんがこちらに戻ってきた。
「戦いの必要性はなさそうですよ」
やっぱり対話出来ていたんだ!すごい!
「奥さんが急に産気付いたので急遽巣作りして出産を待ったらしいです。本当はもっと南の大陸に行く途中で、子供が生まれて飛べるようになったら南の大陸に親子で行くそうですよ」
「ドラゴンの急な出産て」
あるのかそんなこと。
いや、実際に起きているんだから信じねば。
人間にも早産があるんだからドラゴンにだって早産くらい…あるのかなぁ?
「あ」
アデリアさんが声を上げたらちょうど卵からヒビが入っているところだった。
「生まれるんだ」
遠くから見守っていると、ヒビがどんどん大きくなり、小さなドラゴンが生まれた
「生まれた!」
「アデリアさん、声が大きいです!」
子供が生まれたてで気が立っているドラゴンに睨まれる前に早々に下山することになった。
帰りもめちゃくちゃ寒かったが、ドラゴンの誕生という珍しいものと新たな命の誕生というものを見れてどこかほわほわした気持ちだった。
旅が終わって村に戻ったらペット飼いたいな。
王様と王妃様にはその通りにご報告をして、念のためドラゴン一家に近付かないよう見守ってほしいとお伝えした。
ドラゴンが旅立つにはあと数年掛かるだろう。
それまでここで足止めされるわけにはいかないから、何かあったらすぐに戻ると約束をしてアルセフォン王国を後にした。
お土産に名産品たくさん渡されたので、しばらく食料に困りそうもないな。
次の街へ歩いている途中、話題はドラゴン一家のことだった。
「良かったねー!」
アデリアさんは自国でドラゴンが繁殖していき、被害に合わないことを心から安堵していた。
無駄な血を流さずに本当によかった。
「ありがとう、イースさん」
「いいえ、話を聞いてみただけですから」
「それでもすごい!私にはドラゴンと対話なんて出来ないもんなー。これもイースさんの半分が魔族のおかげだね!」
言うと微妙な顔をされた。
受け入れたんじゃないんかい。
「それもイースさんの才能だよ」
またぐいぐいと体を押し付けると今度はイースさんを挟んで反対側からアデリアさんがイースさんを押し込んだ。
アデリアさん、イースさん、私の順でイースさんを挟んでイースさんをおしくらまんじゅうしている。
カルシアさんは少し離れたところから微笑ましげに見ている。
イースさんは「止めてくださいよ!」と顔を赤くして逃れようよしているけれど、勇者から逃れられると思うなよ!
ぐいぐい、ぐいぐいとしていると、しばらくしてキレたイースさんから力ずくで剥がされた。
アデリアさんと笑っていると、イースさんにめちゃくちゃ怒られた。
結果として。
旅も終わって後から聞いた話では数年後、ドラゴン一家は旅立ったらしい。
仲良く四匹で、南の大陸を目指していったとのことだ。
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