第14話
ついに国境を越えて着いてしまった。
アデリアさんの故郷、アルセフォン王国。
さすがに国の名物を持ってご挨拶はまずいからお隣の国で名産品買ったよ!手土産を忘れずにいたアルテさんえらい!
アルセフォン王国はこれまでの国とはまた違ってとても発展していて路面の整備もきちんとされていた。
歩きやすいっていいな!
アルセフォン王国は細かいことまで歴代の国王陛下が目を配っていてとても住みやすい国だと聞いている。
まあ、大雑把に見えて頼れる姉御のアデリアさんの故郷だしね!王女様だしね!
王都に着くとまずはやらなきゃいけないことがある。
「今晩の宿はどうします?」
アデリアさんは久々の実家がいいだろうが、私達はどうしようかと話をしていると、アデリアさんがなんでもないことのように言った。
「なんで宿屋に泊まる話をしてるの?みんなでうちに泊まればいいじゃん!」
あっけらかんとアデリアさんは言うが、もう一度思い出してほしい。
アデリアさんはアルセフォン王国の王女様だということを。
つまりは。
アデリアさんの家、もといアルセフォン王国の王城に泊まりに行くことになった。
「どうしよう!私!あのむかつくお城以外のお城!しかも他国のなんて初めてなんだけど!!更に泊まるのなんて初めてなんだけど!?」
むかつくお城とは、託宣を受けてから連れていかれた自国の王城である。
散々人を値踏みした国王陛下や汚ならしいものでもみるような王妃の顔は忘れられない。
いや!アデリアさんのご両親ならそんなことはなさそうだけど!!
「私はお城に泊まるの初めてではないですが、他国は初めてなので緊張しますねぇ」
カルシアさん、自国のお城に泊まったことあるの?えっ、そんなに偉かったの?
「僕は初めてなので緊張しますね」
「良かった!初めて仲間!一緒に粗相してギロチンになろうね!」
「なんて妄想しているんですか!そもそもあのアデリアさんのご両親ですよ?少し粗相してもそんなことになるわけないじゃないですか!」
「そうだよー。うちの両親優しいよ?粗相なんてしても気にしない!気にしない!自分の家でも来た気でいてよ!」
お城を自分の家感覚に出来たら村人神経してない。
とりあえず何事もないように頑張ろう!
アデリアさんに案内されて、大きい、ここまで大きい門が必要か?ってくらい大きい門を潜って王城に入った。
おっかなびっくり、周りをキョロキョロしてしまう。
田舎者なので許してほしい。
他国のお城なんて初めてなんだもん。物珍しさに視線があちらこちらへいってしまう。
「アデリア様、お帰りなさいませ」
初老の男性が出迎えてくれた。
いかにも執事って感じだ。
「ただいまー」
そしてアデリアさんは相変わらず軽い。
でもここがアデリアさんの実家なんだよな。
仲間の実家に来るなんて初めてだ。
「手紙で知らせてたけどさ、旅の途中で託宣受けちゃって勇者パーティーに選ばれちゃった。こっちが勇者のアルテ。こっちがカルシアさんとイース」
「どうも、勇者やらせていただいています。アルテと申します」
精一杯のお辞儀をする。
執事さん相手ですらこの緊張感ならご両親である王様と王妃様にお会いしたらどうなるんだろう。
元村人にはハードルが高い。
「みんな、自分の家だと思って気楽にしててよ」
などとアデリアさんは言うが、場違い感が半端ない。
とても広い廊下にどうやって掃除するのか分からないシャンデリア、やたらと置いてあるアンティーク調の置物…。
通された応接室でずっとそわそわそわそわしている。
私、勇者なのに。この場にいていいんだろうか?
イースさんも落ち着きがなくそわそわしているのに、カルシアさんは慣れた様子で平然と出されたお茶を楽しんでいる。
「さすがはアルセフォン王国の王城で出される茶葉は違いますねぇ」
なんて言っているカルシアさんを尊敬してしまう。
私なんてソファに座っているのも烏滸がましく感じてしまい、置かれている甲冑同士の間にすっぽり挟まってしまっているというのに。
イースさんからは白い目で見られたけれど、なんで自然と座れるんだ。
…いや、違った。体が小刻みに揺れている!めっちゃ緊張してた!イースさん頑張ろう!私も頑張る!
とりあえず甲冑同士の間から飛び出しソファに座った。
ソファに慣れてきた頃、夕食に呼ばれた。
お城での夕食…。
食べる前から胃が痛い!
執事さんに案内された机に着いて椅子に座ると王様と王妃様も執事さんに先導されて現れた。
アデリアさんが椅子から立ち上がって「お父様!お母様!」とお二人を抱き締めに行っているのを見て、家族っていいなあと思った。
お二人ともとても優しそうなおおらかそうな人達で、さすがはアデリアさんのご両親というかんじだった。
顔立ちはお母様に似ているんだな。
目元がそっくりだ。
アデリアさんから紹介されて王様と王妃様との挨拶もなんとか済ませられた。
粗相なく出来て良かった!
食卓を改めて見るとナイフとフォークが!たくさんある!!どうしよう!?なにこれ!?なんでこんなにあるの!?
なんて思っていたら料理が運ばれてきてしまった。
どうしようかと思っていたら私以外は普通にナイフとフォークを使いこなしていた。
隣に聞くにはちょっと遠い距離だし声に出して聞くと丸聞こえレベル…。
これが田舎者と都会者の差……差別社会よくない………。
私が食べられずに困ってると、アデリアさんがいつもみたく元気いっぱいに「マナーとか気にしなくていいよ!」と言ってくれた。結構な声量で。
そうだね。遠いもんね。これで私がナイフとフォークの使い方がわからないこと全員に知られたけど、善意で言ってくれたアデリアさんを責める気にはなれない。
とりあえずみんなそうしているし外側から使ってこ…。
しばらく食事を楽しんでいると王妃様が思い出したように言った。
「そうそう、アデリアちゃん。北の山にドラゴンが住み着いちゃって困っているのよ。どうか立ち退いてもらえるか交渉してくれない?」
「いいよ!」
アデリアさんは元気良く答えた。
えっ!?
イースさんも穴が開くくらいめちゃくちゃ見ている。
いやいや、そんな気軽にドラゴンなんとかしてって話を軽く了承しないでくださいよ、アデリアさん!
でも、ここまでお世話になってなにもしないわけにはいかない。
それに王妃様はドラゴンを退治とは言わず、立ち退いてもらうと言った。
そういうところがアデリアさんのお母さんぽいし、好感が持てる。
「分かりました!なんとかしてきます!」
そうして北の山のドラゴンをなんとかすることになった。
なんとかするってどうしたらいいんだ。
そもそも交渉してってドラゴンって喋れなくない?会話通じなくない?
……どうしよう。
そうは思っても受けたからには一応なんとかしなくてはいけない。
ドラゴンの巣は、この高い山の山頂付近にあるらしい。
山頂に近付くにつれて寒くなるから防寒対策もばっちりだ!もこもこ暖かい!
まだ夏の地上だけど、不思議と暑くない。むしろちょうどいいくらいだ。
「この山、真冬になると人間も凍死するくらいだから夏に言われて良かったね!」
良かったねではない。
えっ、そんな極寒の地に行くの?今から?
ドラゴンをなんとかしに?
そもそもドラゴンをなんとかするって何?
疑問がまた頭を埋め尽くす。
どうしたらいいんですかアデリアさん!!
「カルシアさん、ドラゴンが会話できるとかって聞いたことあります?」
「ないですねぇ。交渉…どうしましょうか?」
さすがのカルシアさんも困り顔だ。
イースさんも顔が死んでいる!
「アデリアさん、どうします?」
「うーん。とりあえず会ってから考えよう!」
うん!そんな気がしてた!!
道中、何度もドラゴンをなんとかするってどうしたらいいんだろうか?という話し合いが行われた。
そもそも極寒の地にドラゴンが巣を作るなんて聞いたことがない。
知らないだけで寒さに強いドラゴンとか?
分からんからとりあえず突撃するしかない。
幸い、雪もまだ降っていない普通に肌寒い山だ。
なんとかなるだろう。
とか思っていた時期がありました。
山頂付近に近付くにつれてめちゃくちゃ寒い。
大事なことなのでもう一度言う。
めちゃくちゃ!寒い!!
防寒着!もう少し頑張れ!!
震えながら先頭のアデリアさんの後に続いていく。
鼻唄混じりで登っていく地元っ子こわい。
それにカルシアさんもこの寒さでも平然としているのがこわい。
イースさんを見てみなよ。顔面が真っ青だ。
「イースさん、大丈夫じゃなさそうだけど大丈夫?」
「大丈夫じゃないけど大丈夫じゃないと答えるのが癪なので大丈夫と答えておきます」
なんだそのツンは。しんどいときはデレとけ。
体力を温存させるために、ゆっくり山頂に向かって進んでいった。
ドラゴンの説得、本当にどうしようか。
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