第13話
道沿いに歩きながら次の街へと目指す。
地図を見て陽を見て方角を確かめて、てくてく呑気に喋りながら時折出てくる魔物を退治しては歩いていく。
そして地図で確認していたときに気付いてしまった。
「イースさん…とんでもないことに気付いちゃったんですけど」
「奇遇ですね。僕もです」
このまま街をいくつか抜けるとあそこに辿り着いてしまう。
「あ、もうじきうちにつくじゃん!」
アデリアさんは軽く言うが思い出してほしい。
アデリアさんはアルセフォン王国の王女様だということを!
「じゃあ、みんなうちに寄ってよ!親にも紹介したいしさ!」
うちとはつまりアルセフォン王国のお城で、両親とは国王陛下と王妃様である。
「まあ、では手土産を用意しなくてはいけませんね」
なんてカルシアさんは軽く言うが、元村人として荷が重い。
勇者に選ばれた時並みに荷が重い。
「いやでもアデリアさんにはお世話になっているしご両親にご挨拶はしたいです」
「……そう、ですね。それはそうです」
イースさんも同意したところで小さな国境を二つ越えてアルセフォン王国に入ったらアデリアさんのご両親にご挨拶しに王城へ行くことになった。
うぅ…。今から気が重い…。
でもアデリアさんのご両親がどんな人かは気になる。
そうと決まれば!と、またてくてく歩いていく。
目的が増えたところで結局は歩くペースが変わらないのが私達らしいとも思えた。
途中の村は陽が高いうちについたこともあり、そのまま素通りしてしまった。
でも村を見るのは好きであちこち見て回った。
イースさんに「なにかあるんですか?」と聞かれたから「何もないよ」と答えた。
ただ、自分の村を思い出して懐かしむだけだ。
もうすぐ夏が来る。
暑い日に日陰で涼んで風を感じるのがとても好きだった。
村の近くに大きな木があって子供達とそこで涼んでいた。
「もうすぐ夏だねぇ」
ヒリリと肌を焼く陽の強さにそう言うと、イースさんはうんざりとした顔をした。
「夏って苦手なんですよね」
予想通りすぎて笑ってしまった。
イースさん、夏が苦手そうだもんね!
笑われたことに怒られたので「笑った顔もかわいいね」って言ったら余計に怒られてまた笑った。
そのうちアデリアさんとカルシアさんも寄ってきて「イースさんがかわいいのでかわいいって言ってたんですよ」
と言うと二人とも「わかる」と言って各自のイースさんのかわいいところを次々と述べていく。
イースさんの顔が暑さではなく照れでの熱さで赤くなったところで全員でかわいいかわいいと褒めちぎった。
ふぅ、今日もいい仕事をしたな!
村から出てまたてくてく歩いていく。
どこかで馬を買うか馬車でも買いたいかなーとは思うけれど、意外と値が張るし馬の面倒が見れない。
そう思うと徒歩しかなくなってしまうんだよなー。面倒だけど。
でも、不謹慎ながらこうして歩いて喋っている時間も好きだ。
もっと魔王城に近付いたら魔物がうろうろするだけじゃなくて魔族も平然とそこらにいるのだろう。
……あの時の魔族もいるのだろうか?
私は、勝てるくらい強くなれただろうか?
いや、勝てるかじゃなくて、勝つ。
あいつだけは許せない。
殺しに慣れたくないとか言っている場合じゃない。
いや、戦いには慣れてきつつあるんだけど。
魔物退治や出くわした魔物と戦って切って殺して勝っての繰り返し。
負けたら死ぬだけ。
知性のある魔族相手にはどうなるか分からないけれど、ほぼ知性のない動物みたいな魔物相手に負けて生きていられるとは思っていない。
負けたら食料として食べられる。
ただそれだけ。……いやだなぁ。
とにかく勝つしかない。
負けは許されない。
あの村以外で、だけど。
大きな敗北を味わったからこそ次は負けない。負けたくはない。
「頑張ろー!おー!」
「おー!」
突然の私の掛け声に応えてくれたのはアデリアさんだけだった。
カルシアさんは驚いた表情だしイースさんからは白い目で見られた。
アルテさん!負けない!!
歩き続けていくとわりと大きな街に着いた。
次の街まで距離もあるし、今日はここで休むことにした。
宿屋が何件かあってどこにするか迷った。
食堂併設のところにサービスがいい宿屋か低金額で泊まれる安い宿屋か。
他にもあったけれど、アデリアさんの「もう疲れたし新しく食堂探すのも面倒だから食堂併設のところにしちゃう?」の一言で全員賛成した。
宿屋で部屋を取って食堂へ向かった。
ご飯が美味しいのはいいことだ。
ご飯が食べれて、それを美味しいと感じられる。
まだ、私は大丈夫だ。
疲れた体に優しいスープが身に沁みる。
「美味しいー!」
「本当ですねぇ」
カルシアさんも満足気でスープを飲む手が止まらない。
イースさんは華麗に魚の小骨を取っているしアデリアさんも豪快に食べそうでさすがは王族の所作で綺麗に肉料理を食べていく。
こういうところも性格がでるんだなあ。
食べ終わったら各自の部屋に別れて私はベッドに倒れこむように横になった。
肌掛けを掛けて寝ようとは思いつつ疲れた体と満腹の体、適度に汗ばむ陽気に負けてそのまま寝てしまった。
そして初夏に夏風邪ひくなんて、思わなかったよね!
皆に足止めさせて申し訳ないと思いつつ、皆は気にせず各自この大きな街で買い物をしたりして過ごしているようだ。
宿屋のおばさんは食堂も切り盛りしているからか、私用にお粥を作ってくれて本当に嬉しかった。
お粥はスープ同様体に沁みて母を思い出してほんの少しホームシックになってしまった。
結局予備も含めて三日も足止めされたけど、アデリアさん達はギルドで軽い依頼を受けたりしていてプラスマイナスゼロくらいだった。
この分、次の非常事態には私が頑張ろう。
街を出るとき、宿屋のおばさんには感謝のお礼が絶えなかった。
そして気持ちも新たにまた歩き出した。
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