第12話
偽勇者とはどうしよう。
と、いうかそもそも勇者の証明ってなんだ?
どうしたら、なにをしたら、なにを持っていたら、なにを言ったら勇者なんだ?
託宣だとかいう意味の分からないものでこれからの人生を決められ、変えられた気持ちが分かるのか?
私が未だに分からないことを、彼等は知っているんだろうか?
私が疑問尽くしになっているとカルシアさんも怪訝そうにする。
「そうとは見えなくても、アルテさんが託宣で選ばれた勇者のはずですが…」
カルシアさーーーん!!!ひどい!カルシアさんはそんなこと言わないって信じていたのに!!泣き真似すると「冗談ですよ」とフォローが入る。
一番勇者っぽくないって思っているのは勇者の私なんだからな!
冗談でもやめてほしいな!
「でも勇者はアルテでしょ?じゃああいつら偽勇者パーティーじゃん。どうする?勇者の座を賭けて決闘申し込む?」
アデリアさんは攻撃的すぎるな!
「まあ、放っておけばいいんじゃないんですか?聞いている限り悪さをしている感じじゃないですし」
イースさんはいつの間にか他の村人から偽勇者パーティーに関して情報を集めていたらしい。
でも、私は聞いてみたいことがある。
何故、勇者を名乗るのか。名声のためか。
本物は土まみれで薬草採取して薬草ではない草で焼き芋をするような勇者だけど。
勇者として何がしたいのか。
本物は戦いたくないって言い出すし魔王と和平を申し込みたい我儘な半端者だけど。
偽勇者が、何故勇者を名乗り何をしたいのか単純に気になった。
私はなりたくもないのに託宣とか意味分からんもので無理矢理勇者に任命されて旅に放逐された。
苦しいことも辛いことあった。
でもみんながいたから頑張れた。
あの『勇者』は何故『勇者』になりたいのか。それで得たもの、失くしたものがあるのか、『勇者』に聞いてみたくなったのだ。
「ちょっと聞いてみたいことがあるからきいてくるね!」
みんなに一言掛けて、村人に囲まれている話題の勇者パーティーに近付いた。
「こんにちは!勇者様!」
この村の村人だと思われて勇者様達からは好意的な返答を受けた。
「勇者様は、勇者として何をされたいんですか?」
村人の素朴な疑問を装う。
元村人としての平凡な顔立ちが役に立つのがありがたい。
これで百戦錬磨の筋肉マッチョからだったら怪しまれていた。
いやでももう少し筋肉はほしい!
つまり、まだまだ勇者には程遠いってことなんだけどね!
偽勇者はがっちりした体型の男性だった。
羨ましい。これなら勇者と称しても騙されるだろう。
なんだかんだで未だに性別不詳で通している私とはこれまた違う。
成人の儀を迎えても子供っぽさも抜けていない。ようは垢抜けない自分の容姿が少し恥ずかしくなる。
「もちろん!魔王を倒して人間社会に平和を与えることさ!」
「でも、魔王って何もしていないですよね?」
私の言葉に勇者は一瞬言葉を詰まらせたが、わははと景気良く笑って再度答えた。
「魔王が何もしていなくても、魔族がいて魔物がいて、人々に危害を与える。倒すのは当然のことさ」
「でも、それも悪いのはやらかす一部の魔族と魔物ですよね?」
私の言葉にとうとう偽勇者はなんだこいつという顔になった。
ここまで魔王に肩入れする村人もいなかったんだろう。
そりゃそうだ。
魔王っていったら、魔族と魔物を束ねる王なんだから。
……腑抜けって話らしいけど。
話の通じる魔王だといいなー。
私が思うにいい魔王だと思う。
「それでも魔王を倒さなくてはいけないんだよ。それが勇者だからね」
幼子に言い聞かせるようにして話を途切れさせられた。
面倒になったんだろう。
「勇者様のお話、とても参考になりました!」
にっこり愛想は良く。
それでも内心は唾棄するのだから私も大概性格が悪くなってきたな。
まあ、元からいい自覚なんてないけど。
この程度の人間に、勇者として負けるわけにはいかない。
きっと魔王からも怒りを買い、平和な世に争いを招く。
勇者だから、魔王を倒さなくてはいけない。
やっぱり私とは違う。
私は出来れば魔王と和平を結びたい。
魔族や魔物の活動を抑えてほしい。
魔王といえど、すべての末端にまで目を描けるのは難しいかもしれないけれど、出来うる限り協力してほしい。
その代わり、こちらから魔王側に提供出来ることはなにか?
望むだけじゃダメだ。
魔王からも了承を得られるような契約内容を考えないと。
こちらから提供出来る要素は何もない。
魔王城に行くまでに和平を結びたくなる内容を考えないとな。
黙って偽勇者パーティーから離れてみんなのところに戻ってきた私にカルシアさんが声を掛けてくれた。
「もうよろしいんですか?」
「うん。どんな『勇者』か分かったからもういいや。お時間いただいてありがとうございました。宿屋へ行きましょう!」
なんとなく察してくれたんだろう、偽勇者パーティーとの会話は聞かれず、宿屋に行ってそのまま一泊した。
宿屋は一件しかなかったから偽勇者パーティーとは近くの部屋だったし食事の時間も被ってしまい食堂で鉢合わせしたけれど、特に問題はなかった。
向こうは向こう。私達は私達で過ごしていた。
「ここにはギルドもないしやることもなさそうだし、明日の朝に出発でいい?」
夕食時のアデリアさんの提案に全員で同意した。
多分、偽勇者パーティーも差異はあれど明日くらいには出発して大きな街を目指すんだろう。
『勇者』として褒め称えられるために。
でも、それでも彼等が『勇者』として人の役に立っているのであれば文句はない。
人の役に立つ人は多い方がいい。
だから相手のことを偽勇者だと断罪しない。
その必要もないからだ。
「このまま魔王城に向かうルートでいいよね?」
「はい。このまままた街があればギルドに寄り魔物退治の依頼で経験値を上げたりお金になる依頼をして貯蓄を増やしつつ向かいたいと思います」
「つまりは今まで通りってことだね!」
「まぁ、それが一番無難ですしね。」
イースさんが言ったところで偽勇者パーティーから野次が飛んできた。
「おいおい!魔王城に向かうって正気かい?観光名所じゃないんだぞ!」
どっと向こうのメンバーが笑う。
こちらは誰も構わず黙々と食事を続けながら自分達の会話を楽しんでいる。
あんな軟弱そうで魔物が倒せるのかとか、女子供だけのパーティーだけで旅するなんて少年がいいよななどの侮蔑の言葉もすべて無視した。
私達が何の反応も示さないことに興味が削がれたのか、お酒をぐいっと飲みきると、向こうは向こうで自分達の武勇伝を村人に語って聞かせた。
嫌な食事になってしまったな。
けれど嫌なやつに突っかかって無駄な労力を費やす方が無駄だ。
特にああいう輩には。
そのまま宿屋に戻ってむかつくことにむかついたので深呼吸を数回繰り返して寝た。
もう少し強そうな外見になれればイースさんやアデリアさんやカルシアさんが侮られなくて済むのかな。
筋トレ増やそう。
偽勇者パーティーとは出発の時まで一緒だった。
まあ、宿屋をでる時間が決められてるからね!
仕方がないよね!
偽勇者パーティーは出発の時もちやほや村人から別れを惜しまれていた。
「行こっか」
「いいんですか?」
カルシアさんに尋ねられ頷く。
「あんな勇者なら、放っておいてもいいさ」
これは軽蔑の意味でだ。
あの勇者なら魔王の城まで辿り着かないだろう。
それまでに終わる人達だ。
私達が同行する必要はない。
「行こう」
そしてまた私なりの勇者としての旅は続いていく。
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