第10話
「それにしても、アルテさんは随分と無欲で我儘ですね」
カルシアさんに言われる。
本日は殺しに慣れたくないと言った私の心を汲んでギルドの依頼で魔石を探しにダンジョンを探索している。
そういう気遣いが本当にありがたい。
まあ、それでも魔物は出るんだけどね…。
「無欲で我儘とか、クールで格好良くないですか?」
先日洩らした本音を言われて恥ずかしくてつい茶化してしまう。
カルシアさんは微笑むだけだった。
「無欲で我儘ですよ。殺しに慣れたくないとか、魔王に和平を申し込みたいとか、なかなかに難しいですよ。それをやりたいって言い切るなんて」
「やっぱり難しいですよねー」
「いいえ、アルテさんらしくて私は好きですよ」
慈愛に満ちた微笑みに私も笑ってしまう。
この頃のカルシアさんは、様付からさん呼びになってくれた。
「私も、カルシアさんがすきです。イースさんもアデリアさんも、みんな大好きです。託宣の意味とか全然分かんないし、未だに勇者になりたくなかったとは思うけど、勇者にならなかったらみんなには出会えなかったんだなーと思うと、勇者になって良かったです」
「そうですか」
ふふふ、とほのぼのした雰囲気でいたらイースさんから「口を動かすより手を動かしてください!」と叱責が飛んできた。
でも顔が赤いから私達の会話が聞こえて照れてるんだな。
思春期かわいいな。まあ、アルテさんの思春期もかわいかったけどな!
ダンジョン内でもう持てないってくらい魔石を堀尽くして帰路につく。
魔石、量があると重たいな。
発掘作業に震えた手には厳しい。
みんな発掘作業に疲弊したのにアデリアさんだけ元気だ。
「明日は薬草探しの依頼だよー!」
しかも明日も探索系かー!依頼者の希望量探せるかなー!
ギルドで依頼の魔石を渡して任務終了。
宿屋に戻ってまたわいわい騒いで寝る支度をする。
もうそろそろ武具を造って貰う後払いのお金も貯まりそうだ。
そうしたら、魔王と会うことももう少し踏み込んでみたい。
もう少し魔王の居住区内の領域へ。
和解出来るかは分からないけれど、分からないからと諦めたくはなかった。
「いい魔王だといいのにな」
僅かな望みを口にして寝た。
翌日、雲ひとつない快晴の中、薬草探しで地面とこんにちはしている。
鑑定のスキルがないと普通の草と少し違う程度の薬草の区別は難しい。
イースさんとカルシアさんが鑑定のスキルをもっていたため、見本の一本を片手に似たようなものを多少集めては同じく薬草探しに奮闘しているイースさんかカルシアさんに訊ねて薬草だけを籠に入れる。
普通の草だったものはあとで纏めて燃やして焼き芋でも食べようと話はしてある。
黙々と草を取っていてもとてもつまらないので、思わず雑談してしまっても許してほしい。
「そういえば、私は託宣とかいう無茶振りで勇者になったけど他のみんなは元から冒険者だったんですよね?なんで冒険者になろうと思ったんですか?」
みんな飽きてきたらしく、アデリアさんから即返答が来た。
「城暮らしに飽きてたからかな」
「え?」
「だからさ、城暮らしに飽きてたの!私、一応王女だし結婚しろとか散々言われてきたからさ、めんどくさくなっちゃって家出してきちゃった」
してきちゃったってアデリアさん…えっ、ていうか王女?王女様と言いました?アデリアさんが?
「………………王女、とは……」
イースさんは早々に薬草を持ちながらバグってる!
カルシアさんも驚いたようで口を開いたままにしてしまっている。
「アデリアさん、本当に王女なんですか?まじですか?本当ですか?」
「失礼だな!なんならそのうち、うちの城に来てよ!大歓迎するよ!」
うちの城ときた………本物の王族だ…。
いやでも気遣いも出来るしがさつに見えて所作も綺麗だし本当に王女様なのかもしれない…。
この世は奥が深い…。
「イ、イースさんはなんで冒険者やってるんですか?まだお若いのに」
アデリアさんの爆弾発言から逃げるようにイースさんに話を振った。
これ以上は聞いたらやばいことまで出てきそうだ。
「…僕は、見聞を広げたくて、ですね」
イースさんらしい答えだった。あまりにそれっぽすぎてつまらない。
「もっと面白い理由を要求します!」
「なんでですか。それ以上も以下もありませんよ。でも、まさか託宣で勇者パーティーに入れられた挙げ句に勇者がこんなのとは知って面白かったですけどね」
「なんだとー!それにそれはイースさんが面白かった話で私は面白くない!」
プンスカ怒る私にアデリアさんがクッキーを別けてくれた。
もぐもぐ。こんなんじゃ許さないんだからな!美味しいなこのクッキー!もぐもぐ。
「カルシアさんはなんで冒険者してたんですか?」
「そうですね…あえて言うなら自分探しの旅をしていただけですかね」
急に深い話が出てきた。
「自分探しの旅、ですか…。見付かりました?」
「それがまだなんですよねぇ。でも、手掛かりは見付けた気がします」
穏やかな笑みは、本当に少しだけど何かしら得るものがあったんだろうという感じられた。
「自分、見付かるといいですね」
「そうですね」
にこやかに会話しながら草の山を持っていくと、無情にもそれは薬草がひとつもなく草の山だった。
……いいもん。あとで焼き芋するから!
「それにしても、みんな都合良く王都にいてくれて助かりましたよね。これも託宣パワーなんですかね?」
「なんだかそれだと有り合わせな気がして嫌ですね」
イースさんが顔をしかめる。
本当に、託宣ってなんなんだろうな。
終わり際に抜き取った雑草で焼き芋パーティーしてから岐路に着く。
ほくほくの焼き芋は甘くて疲れた体に染みた。
そんなこんなで今日の依頼も無事に達成できてギルドに薬草を引き渡した。
一日中草堀りをしていたから身体中に土が着いている感じかする。
今日は食事の前に宿屋の簡易シャワーでゆっくり土を洗い流そう。
ゆっくりシャワーを浴びて着替えて食堂に行くともうみんな集まっていた。
「今日はたくさん働いたからお肉の気分!」
「昨日もそう言ってお肉だったじゃないですか。バランス良く食べなきゃ体に悪いですよ」
「イースさん、お母さんみたい…」
「誰がお母さんですか!大体あなたの方が年上でしょう!」
なんてやり取りをして結局お肉を食べた。
魚も好きだけど、お肉美味しい~!
「デザート、いきたくない?」
というアデリアさんの甘い誘惑にもあっさり乗った。
ずっとたくさん肉体労働してきたからカロリーなんて相殺されるよね。アルテさん信じてる。
後払いのお金も貯まったので、鍛冶職人にお金を支払い武具を買った。
新しい武具は、なんというか格好良かった!少しは勇者っぽくみえるかな!どうかな!
「どうですか!?」
ドヤッと見せびらかしたらアデリアさんからも見せびら返された。
「私も相当似合う自信あるよ!」
「お二人ともお似合いですよ」
「カルシアさんもお似合いですよー!格好いい!綺麗!微妙なニュアンス!最高!!」
「念願の新しい武具で喜んでいるのも良いですけど、目的を忘れないでくださいね」
イースさんに釘を刺されたので、イースさんも赤くなるほど誉め殺しといた。
ふぅ、いい仕事したな!
そんなこんなでようやく次の街へと向かうことになった。
なんだかこの街には長く滞在したせいか名残惜しい。
「魔王の城までへの道程で次の街ってどこだっけ?」
「ここですね。急げば夕暮れには辿り着けるかと思います。」
イースさんが地図を広げて説明をしてくれる。
ふむふむ。ほぼ一本道か。
「よし!誰が一番早く辿り着けるか競争だね!」
言うとアデリアさんが全力ダッシュしだした。
「えっ!?まじで!?まってくださいよアデリアさん!」
私も思わず走り出す。
「これだから脳筋は…!」
イースさんが文句を言うのをカルシアさんが宥める。
「まぁまぁ、楽しくていいじゃないですか」
本当ならのんびりと歩いていく筈なのに、本当に次の街まで全力ダッシュさせられた。
ちなみに一番遅れて走り出したカルシアさんが一着だった。すごいよカルシアさん!
二位はアデリアさんで三位は私、四位は息切れして足がプルプルしているイースさん。
この全力ダッシュに意味があるか聞かれたらまったくない!
みんな早々に宿屋で部屋を取って少し休んで食堂を探した。
ここの料理もとても美味しい!
食事の最中、カルシアさんがぽつりと「あの村にいた魔族とまた出会うことがあれば、今度は全力で叩きのめしたいです」と言った。
カルシアさんがそういうことは意外だったがこの場にいるみんなが思っていることだろう。
あの魔族は許せない。
「絶対、次は勝ちましょう」
みんな頷いてくれた。
倒してすべてがなかったことになるわけではないけれど、弔いの意味も込めてあの魔族を倒して今度こそあの村の人達の冥福を祈りたい。
私が勇者としてもっとちゃんと出来ていて強かったらこんな思いはしなかったのかな。
……いいや、違う。
わたしは単なる『アルテ』として在りたいと思ったはずだ。
弔いも、勇者としてではくてアルテという個人で冥福を祈りたい。
その方が私らしいと思った。
あの魔族とまた会えることはあるんだろうか?
今の魔王をあの魔族が倒して魔王になっていたら和平は申し込まない。
倒したい。
そう決めた。
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