雑談#4

 バカ野郎が持ち込んだと言うより作ってきた事件も、なんとも俺らしい締まりの緩い結末を迎えて、残す問題は無職を一人抱えているという事だ。

 雑な詐欺にカモられた田舎少女は、今や宿屋の食堂でマスコット枠に収まり売り上げに貢献している。

 農村野郎も読み書き計算をマスターし、もう立派な宿屋の従業員になっている。

 俺は相変わらず日雇いで宿代を稼いでいる。

 バカ野郎は俺が付けた両頬の痣が消えるころになってもまだ仕事が無く、助けた田舎少女のヒモになっている。

 少女的には「命の恩人に報いる」との事だが、バカ野郎には針の筵になっていることだろう。

 非力な少女を救って英雄になるつもりが、その少女に養われる事になるとか「喜劇のネタとして売れば多少収入になるんじゃねぇの?」ってからかったら涙目で殴り掛かってきた。

 バカ野郎を日雇いに連れてったこともあったが現場監督のいい加減な指示に食い付いたり、出入りの業者のごまかしを問い詰めたり、やっている事は正しいのだが加減が出来ないようで連れて行った俺ごと出禁にされた事もあった。

 最終的には田舎少女が末っ子の面倒でも見ているかのようなヒモ生活に収まってしまった。

 そういや末っ子だったわあいつバカ野郎


 いつも通りの日雇い労働を目に着かない程度にのんびりとこなす。

 急いで終わらせると明日の仕事がなくなるなんて小賢しい事を考えながら雑談交じりで穴を掘る。

 痩せた土地を石塀で囲んで新たな居住区にするらしい。

 塀を立てる所に基礎をがっちり組むための深めの穴を掘り続けている。

 俺が爺になる前に穴は掘り終わるだろう。

 その後に石を組み上げる仕事も続くので今の仕事を片付けてもまだ先まで日雇い仕事は続くのだが、高いところの仕事は嫌なのでずーっと穴掘りが続けばいいと思っている。

 今日の作業が終わって帰路に就く。

 水場に寄って泥を洗い流すことも忘れない。

 宿に着いたら食堂で働く田舎少女に夕飯を頼んで席に着く。

 いつも通りのルーチンワークをこなしてほろ酔いになったら寝るつもりの俺にバカ野郎が組合の募集記事を持ってきた。

 討伐依頼と調査依頼ってバカ野郎が普通に働ける人間なら能力にピッタリの仕事だが、どっちも人に合わせられないバカが混じると即死もあり得る依頼じゃねーか。

 俺が鼻で笑ってやると、

「監督が居れば俺も参加できるって言われたんだ。一緒に行こうぜ。」

とかぬかしやがった。

 バカ野郎は遠回し(?)に断られた事に気付いてないのか俺が喜んで参加すると思っている様な表情だ。

 このまま断って知らない誰かに監督役をさせた上に全滅とか申し訳ない気もするが俺だって命は惜しいのでハッキリと言ってやる事にした。

 「交換条件だ。お前が俺の言うことを聞かないときは金輪際の関係を断つ。」

 我ながらバカ野郎の本気の確認と今後の俺の安全を兼ね備えたいい提案だと思う。

 これを聞いたバカ野郎の返事は「おう」と力ない弱々しいものだったが、聞き耳を立てていた田舎少女が「きっとできます」と追い打ちをかけていた。



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 ある晴れた昼下がり・・・ @nezumi-73

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