雑談#2

 森に入れないなら町で仕事を探すしかない。

 安全な町の中は競合相手も多い。

 森へ行くのは町の中の競争に負けた連中で、大抵後の無い連中だ。

 つまり、事故でも起きなければ参入チャンスは無い。

 そんな訳で俺は今、手詰まりとなっている。

 顔見知りのいない若造が実績の無い俺の元に居たところで仕事が転がり込むわけも無く、森で散々暴れたと思われている俺たちを試しに使おうと思うほど働き手に困った状態でもない。

 日が経つにつれ、宿の女将の目つきがきつくなる。

 一人部屋に三人住んでいるのだからしょうがない。

 朝晩の労働を割増の家賃代わりに若造を貸し出す事でひとまずの話を付けている。

 農村野郎はまめに働き評判がいい。このまま宿に引き取ってもらえそうだ。

 しかし、末っ子野郎はダメだ。宿の仕事で出来るのが薪割り程度。しかも、近所のガキの方が上手にこなす。

 とりあえず剣はまともに振れるので、宿の前に護衛代わりに立てておいたが客を睨み過ぎて女将さんに蹴飛ばされていた。

 腐っても男爵の息子。読み書きも計算もできるので期待されていたのだが、人の部分が腐っていた。

 才能有るバカって、本当に居るんだな。

 そんなバカが、問題を起こした。起こしたと言うか、拾ってきた。

 俺が女将への所得有りますアピールのための日雇いから帰ってみれば、右肩に奴隷紋を刻まれた女の子が部屋の隅で泣いていた。隣にはバカが立っていて、俺と目が合ったと思ったらいきなり土下座した。

 「この子を助けたい。頼む。」

 このバカ、石潰しを超えて犯罪者になりやがった。

 見ればその辺にいる平凡な面の女の子。犯罪に手を染めるほどの価値を感じない。いや、価値が有ったところで目の前の二人を宿の外に蹴り出す以外の選択肢を俺は持っていない。

 ここで素早く行動できれば俺ももっと友人が居たのだろう。

 そこへ農村野郎が入ってきた。

 「そろそろ飯の時間・・・何?」

 多分青ざめて棒立ちな俺と、土下座するバカ野郎。その奥にメソメソと泣いている女の子。

 この状況を理解できる奴が居たらそいつにすべてを任せて旅に出たい。そして結果報告は要らない。

 俺が現実逃避から帰ってくる前に、農村野郎は何も言わないままベッドの毛布を女の子に纏わせ、

 「まずは夕飯を食べて落ち着きましょう。」

と言った事で何とか俺も現実に帰ってこれた。

 「おう。バカが調子悪いとか言って、部屋に飯を運んでくれ。」

 頷いて素直に部屋を出て行く農村野郎を見送って、事情を話すようにバカを促す。

 要約すると、首に縄を付けて女の子を引っ張る姿を見てキレて襲ったらしい。

 なんか涙が出てきた。あまりのバカさに感動したよ。読み書きができて、計算もできて、剣術すらそこそこできて、なんであぶれていたのか、今すべてを理解した。

 農村野郎が飯を持って入ってくる。なぜか女将さんも入ってくる。おい、なんのために部屋に飯を運ばせたのか分かって無いのかよ。

 バカと女の子がぼそぼそと飯を食っている間に事情の説明をする。と言っても一言で終わる内容だが。

 女将さんの呆れ顔、いや哀れみだなこれは。

 農村野郎。そんな期待の眼差しを俺に向けるな。

 そしてバカ野郎。こんな状況で完食してんじゃねぇ!!




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