雑談

 春も半ばになると口減らしと出稼ぎを兼ねて、田舎から新人が町にやってくる。

 そんな時期は中堅になっても何ら成果の無い落ちこぼれどもが教育と言い張って、新人をこき使い荒稼ぎを狙う光景をよく目にする。

 そんな先輩たちを見ながら育った俺も例に漏れず新人に声を掛け、半日粘ったところで二人の若造をゲットできたので近場の森へ狩へと出かける。

 一人は農村の出らしく、獲物を探して森をうろつきながら良さ気な山菜なんかを収穫している。

 今晩は獲物が無くても晩酌くらいはできそうだ。

 もう一人は貧乏男爵の末っ子らしく、抜身の剣を構えながら何やら血走った目つきで動くものを探している。

 今日、獣が出て来ないのはコイツのせいだと思う。

 そんな感じで夕方まで粘り組合に戻ると、農村出の少年が採取してくれた山菜を納品し、売り上げの半額を俺が取り残りを二人で分けるように言う。

 実際に金を見て改めて不満が出てきたようだが、森への移動中に言い含めておいたのが効いているのか文句は言わなかった。

 初めて入った山を半日うろついて採取した程度の山菜では夕飯で売り上げは消える。

 当然、宿代なんか残らないので若造どもは俺の部屋に押し入って、朝目覚めた時には部屋の床に転がっていた。

 農村出の少年では持ち逃げなんて思いつかないだろう。

 貧乏男爵の末っ子は貴族のプライドが許さなかったのか、持ち逃げは考えなかったようだ。

 女の子でも拾えれば美味しい事も有ったかもしれないが、野郎二人で何かあったら俺が困る。

 床に転がった二人を蹴り起して朝飯を食いに行く。

 俺は定宿だから宿代に朝飯が含まれているが、宿代も払えず押し入ってきたこの二人に飯は無い。

 とは言え腹ペコで獲物を追えませんでは餓死か野盗落ちなので自腹を切って食わせてやる。

 末っ子野郎が

 「昨日ハネた分で払えるだろ」

とかぬかしやがったが

 「その稼ぎは農村野郎が採った分だ」

と怒鳴る代わりに鼻を鳴らすだけにしておいた。

 その日は飯を食ったらそのまま山へ向かい三人で山菜を取りまくった。

 農村出の少年は山菜の事を丁寧に教えてくれて、このまま山菜取りで暮らすのも悪くないと考えていたが、二人の若造の食費が売り上げの半分以上である事を改めて思い知ってその考えを投げ捨てた。

 このまま獣を狩れないと、若造二人の食費で俺は破産する。

 商家の友人でもいれば手数が増えたことで護衛なんかもできるのだろうが、生憎俺には靴屋の爺くらいしかいない。

 これでも若いころは気合も十分で足回りに気を使っていたこともあり、腕利きの靴屋に通い詰め友人と言える付き合いとなっていた。

 獣を狩り、その皮、牙、骨などを卸す事でやっていたが最近息子に店を引き継いでいて、その息子の方はカミさんの兄貴と付き合いがある商家から良い材料を多く仕入れる事が出来る。

 あとは察しろ。

 農村野郎は山菜を採りまくり、末っ子野郎はどこかの流派らしい綺麗な剣術で獣に挑みかかり逃げられ、その時に発する奇声で周りの獣も逃げ出し、五日目にして組合から森への立ち入り禁止を言い渡された。


 詰んだ・・・。




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