悲忘の赤

 私が生まれ落ちたとき、最後に覚えていたものは真っ赤な瞳だった。

 私に食い付き引き裂いた恨覚の主。

 忌々しい真っ赤な瞳には怒りが宿っていた。

 私が何をしたというのだ。

 私はただ、生き延びただけだ。

 小さな泡に捕らわれ、永遠の苦痛、生存と輪廻を強制された哀れな労働者、無様な家畜とされていたのだ。

 心ある者なら脱出を企てるのは当然ではないか。

 創作者のエゴに塗り潰された矮小な世界を破壊してやった。

 その手から逃れるために粉々にして吹き散らしてやった。

 しかし、無数の世界の欠片から、そいつは私を見つけ出し食い付いた。

 そいつの牙は創作者の爪となって私を捕らえた。

 体に潜り込む牙の痛みよりも、その執念に寒気を、執着に悪寒を感じた。

 そして、私は感情のままに暴れた。

 そして、そいつはあまり賢く出来ていなかった。

 暴れる私を抑えるために力を入れすぎたのだ。

 おかげで私の体は引き裂かれ、虚空へと落ちた。

 創作者の力の範囲から零れ落ちる事に成功した。

 僅かな暗闇の時間を経て、気付くと、開拓村で雑貨屋を営む夫婦の娘として生まれ落ちていた。



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