第34話 くさいー!!!
チチチ、と鳥の鳴き声が聞こえ日野は目を覚ました。朝の明るい日差しが窓から差し込んでいる。
まだ重たい瞼を擦ると、身体を起こした。
何だか楽しい夢を見ていたような気がするが、あまり覚えていない。
「お鍋……楽しかったな」
すやすやと眠る三人を見て、昨晩の事を思い出す。
私は一体、どうなってしまうのだろうか。何故、私はこの世界に来たのだろうか。
あの本の力でこの世界へ来たのなら、元の世界へ帰る方法も本に書かれているのではないか。
もし書かれていたら……私は、帰らなければならないのだろうか。
あの色の無い無機質な世界に。
帰りたくない……そう思った時、腹の虫がぐるると鳴った。
そう言えば、この世界に来てからよく朝ごはんを食べるようになっている。
みんなで食べる朝ごはん、そんな些細なことも、日野にとってはいつの間にか楽しみになっていた。
三人の寝顔を見て小さく微笑むと、日野はベッドを整えてキッチンへ向かう。
炊飯鍋を覗くと、既に米が炊き上がっていた。
昨日の夜にグレンが炊いておいてくれたのだろう。日野は手をしっかり洗うと、朝ごはん用のおにぎりを握り始めた。
暫くして、四人分のおにぎりと一匹分のチーズを用意し終わった頃、ベッドの方から何やらわいわいと騒ぐ声が聞こえてきた。
「くさいー! お酒くさい!」
「すみません、ちょっと飲みすぎちゃって」
ベッドに腰掛け申し訳なさそうに笑うアイザックを、ハルが鼻を摘みながらポカポカと殴り始める。
「なんでボクの隣に寝るの!?」
「良いじゃないですか、一晩くらい。じゃあ日野さんの隣で寝てよかったんですか?」
「駄目! それよりボクがショウちゃんの隣に寝たら良かったんだよ。ザック先生なら寝てるボクをショウちゃんのベッドに運ぶくらい出来たでしょ?!」
「それじゃ日野さんを起こしちゃいますから」
「そこは起こさないように上手くやってよ!」
ハルとアイザックの言い合いで、静かだった部屋の中が一気に騒がしくなった。
お酒の匂いがよっぽど嫌だったようで、ハルは力一杯アイザックを殴っている。
しかし、ハルがポカポカと殴っているのも肩たたき程度にしか感じないのか、アイザックは目を擦りながらまだ眠たそうにしていた。
そんな二人の様子に何だか微笑ましいなと思いながら、日野は冷たいお水をテーブルへ運び、グラスと小皿に二人と一匹分の水を入れた。
喉が渇いていたのか、アルがテーブルに駆け上ってくる。
「ハル、アル、ザック先生、おはようございます」
日野が声をかけると、アイザックと頬を膨らませたハルが朝の挨拶をしながらテーブルについた。
グレンはこちらに来ないのかと、チラリとベッドの方を見ると、あからさまに機嫌が悪い様子でベッドに腰掛けている。
まだ眠たいだけか……それとも、いつもより騒がしかったせいで怒っているのだろうか?
ウトウトしながらも不機嫌オーラを放つグレンの姿に苦笑すると、日野はキッチンへおにぎりを取りに戻った。
その後、相変わらず半分眠りながらも器用におにぎりを食べるグレンを眺めながら朝食を済ませ、グレンが完全に目を覚ます頃には全員身支度を済ませていた。
今日は、朝からアイザックと一緒に情報屋へ行き、あの赤みがかった髪の子供の行方を追うとのことだ。
「さて、では行きましょうか」
「本当に大丈夫なんだろうな?」
訝しげに見つめるグレンに、任せてくださいとアイザックが胸を張った。
四人と一匹は、それぞれ心のどこかに不安を抱きながらも、あの赤みがかった髪の子供と青い本を探すため、宿屋を後にした。
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