第25話 見た目の割には
「それから、ずっとこんな調子なの」
ハルは両手を上げ、お手上げだというポーズを取る。ハルの肩の上では、アルも真似して同じポーズを取っていた。
「なるほど。グレンは日野さんを少し意識し始めたのに、日野さんは全く気付いていないと」
「ショウちゃん鈍感なんだと思う」
「逆に、日野さんはグレンに心配をかけてしまうことに関してはとても気にしていると」
「グレンは心配性だからね」
二人でコソコソと話していると、それまで日野と話をしていたグレンがこちらにズカズカと近付いてきた。
「グレンも素直じゃないところありますからね。その上、日野さんも鈍感となると。可哀想に……」
「可哀想に……」
二人が口に手を当て、近付いてきたグレンを憐むように見つめる。
ハルの肩の上で、アルも口に小さな手を当てて動きを真似していた。
「……なんなんだお前ら」
「焼きもち焼かなくても日野さんは取りませんよ」
「取りませんよ」
今度は呆れたように顔の前でヒラヒラと手を左右に振る二人と一匹。
「そんなんじゃねえ。勝手に色々言うんじゃねぇよ」
そう言ってグレンが否定するが、このおじさんとマセガキには効果が無いようだ。
パタパタと後ろから日野がやってきたので、グレンは慌てて話題を変えた。
「ていうか、おじさんもそろそろ結婚した方が良いんじゃないのか? パーティーなら女も来るんだろ?」
「いやあ、パーティーで出会う女性はちょっと……特に好きな人もいませんし。他人の恋愛に首を突っ込むのは好きなんですけどね」
ね〜、と楽しそうにアイザックはハルと顔を見合わせている。
ハルが順調にマセガキへと育っていったのはこの悪趣味なおじさんのせいだ。
グレンがジットリと二人を睨んでいると、隣に並んだ日野がアイザックを見て首を傾げた。
「そういえば、白のスーツって珍しいですね」
「ああ。ほら、私いつも白衣なので。何となく白を選んじゃうんですよね。色は何でも良いって言われましたし……変ですか?」
「いえ、とっても似合ってます。本当に王子様みたい」
「ボクも着たいなー。ショウちゃんのドレスも見たい」
「わ、私はドレスなんて似合わないから……」
着るなら何色にするのかなどと話しながら、わいわいと楽しそうな日野とハルを横目に、グレンが真剣な顔で尋ねる。
「おじさん、パーティーが終わったらすぐに帰るのか?」
「いえ、少し滞在しようかと」
「……話があるんだが」
「ええ。後で落ち合いましょう」
そんな話をしていると、向こうからパーティードレスを身に纏った女性達がこちらへやってきた。
美しいドレスに、輝く宝石、まるで貴族のようなその女性達は頬を赤く染めてアイザックに駆け寄る。
「ザック先生、もうすぐパーティーのお時間ですわ。ぜひ、わたくしと一緒に行きましょう」
「いえ、ザック先生はわたくしと一緒に」
「あら、わたくしと一緒に行くのよ」
ああだこうだとその場で揉め始める。
アイザックはハハハと困ったように笑うと、みんなで行きましょうと言って、女性達を連れて会場へと向かって行った。
「……どこ行っても相変わらずだな、あのおじさん」
「モテモテだね〜」
「そういえば、グレンはザック先生のことおじさんって呼ぶよね。私とそんなに歳が離れてるようには見えないけど……」
「あの人、三十五だぞ」
「あ……見た目の割には」
「おじさんだよね〜」
遠くに見えるアイザックの周りにはわらわらと人が集まっている。
困ったように笑うアイザックの顔を思い浮かべ、パーティーが苦手と言うのも納得だと、三人は顔を見合わせて笑った。
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