第2話 旅の人
ここは、日野が暮らす世界から遠く離れた、とある一つの世界。青々とした草木が茂る森の中。照りつける日差しから隠れるように、木陰に座る影がふたつあった。
うち一人は、栗色の髪の男。木に背をもたせ、気怠そうに俯いていた。もう一人は深緑色の髪の少年で、膝を抱えて座り込んでいた。
少年は先程から男の方をジッと見つめていた。そして、痺れを切らしたように声を上げた。
「ねぇ、グレン。ボクお腹空いた」
深緑色の髪の少年は、そう言って頬を膨らませた。だが、催促しても栗色の髪の男から返事はなかった。
見上げると、今日は快晴だった。澄んだ空には、太陽が真上まで昇っていた。普段であればそろそろお昼ごはんを食べる時間だが、今日はまだ何も食べていない。腹の虫は先程からずっと鳴り続けていた。
少年はムッとして立ち上がると、返事のない男に近寄って更に催促した。
「ねぇ、グレンってば。お腹空いたよ」
「食料は尽きた……って昨日言っただろ。次の街まであと一時間くらいだ。もう少し休んだら出発するから我慢しろ、ハル」
グレンと呼ばれた男が顔を上げると、ハルと呼ばれた少年は頬を大きく膨らませていた。グレンは、やれやれと諦めたように溜め息を吐いた。そして、ハルの頭に手を乗せて、深緑色の髪をクシャリと撫でた。
この世界には、いくつもの街が点在していた。グレンとハルは、一つの街に定住することなく、各地を巡りながら旅を続けていた。不自由なことも多いが、男二人の気ままな生活だった。
そんな旅の中でも食料不足は度々問題になっていた。そして今回も、次の街に着く前に食料が尽きてしまっていたのだ。何か獲物を探して獲ってくれば良いだけの話なのだが、今日は普段より気温が高かった。ジリジリと皮膚を焼くような暑さで、動く気にもなれなかったのだ。
グレンは再び
「しかし、腹減ったな」
「でしょ?」
力なく呟いたグレンに、ハルが同意を求めた。グレンの栗色の髪が小さな手に引っ張られ、早く次の街へ行こうと急かされる。
「引っ張るな、ハゲる」
「ハゲたくないなら出発! このままじゃ干からびちゃうよ」
手加減することもなく、小さな手はぐいぐいと髪を引っ張った。グレンはその手を無理矢理引き離すと、渋々立ち上がった。そして、流れる汗を拭いながら、日差しを避けるように歩き出した。
「あ、待ってよ。おいで、アル」
慌てたようにハルが呼びかけると、茂みの中から一匹のネズミが飛び出した。チチチと鳴きながら、小さな体はそのままハルの肩まで駆け上った。
灰色の柔らかい毛並みに、ネズミにしては少し大きな体。アルと呼ばれたそのネズミは、ハルの肩の上から尻尾を垂らし、大人しく座った。
「もう少しでごはんだからね」
ニッと笑ってアルの頭を撫でると、ハルは走り出した。次の街までは、あと一時間足らずで到着する筈だ。
「また"先生"に会えるのが楽しみだね」
アルに向かってそう言うと、ご機嫌な様子で鼻歌を歌いながら、ハルはグレンの後を追っていった。
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