第5話 クリル村①

「今日は、ここに泊まろう」

 私達は森が開けたところにある村で、馬を降りた。村を囲う柵の一箇所に馬を繫ぐ。

 もう日がだいぶ落ちてきていた。いつの間に上がってきたのかこの村は少し高台にあったので、夕日が綺麗によく見える。徐々に紺青が濃くなる空とは対照的に、今度は地上が、灯される火によって朱く染まっていく。

 この村に、宿屋はないという。ガンジスが、泊めてくれるという親切な村人を見つけてきた。

 人の良さそうなおじさんと一緒に、私と同じくらいの年齢の女の子も近づいてきた。ストレートの金髪に切れ長の目が特徴の、綺麗な子だ。

「初めまして! 名前はなんていうの?」

 意外とツンとしてる感じではなく、話してみると笑顔がかわいい明るい子だった。逆にこっちがドキマギしてしまう。

「・・・リリス」

「へー、リリスっていうんだ! 私はソラリス。名前がちょっと似てるね!」

 そして、私の手をとる。

「私の家はあっちだよ。行こ!」


      ***


 ソラリスの家は、昨晩泊まったロッジよりも広かったが生活感がすごく、むしろ狭く感じた。

「ごめんね〜〜。着替えたりするときは小屋があるから。私、お父さんと二人暮らしだから家狭いの。部屋もここだけだし」

 よく見たら小さなベッドが部屋の隅に2台あった。

 祖父とソラリスのお父さんが談笑しながら家に入ってきた。

「リリス、私達は床で寝かせてもらう」

「ソラリス、リリスさんと同じベッドで寝なさい。ジャックさん、本当にいいんですか? 私のベッドを使わなくて。まあ私のベッドもそんなに綺麗な訳では無いですが・・・」

「ええ、もちろんです。お気になさらず。我々は慣れてますから。リリスをよろしくお願いします」

「ですが、そんな。ジャックさんといえばかの有名な勇者様じゃないですか」

「昔の話です」

 ソラリスの父親はさらにもう少し食い下がったが、祖父は固辞した。

 その日は小さなテーブルを5人で囲み、楽しい夕食をとった。二人が準備した食事に加え、旅の途中に祖父が捕った、見たことも無いような鳥を焼いた。ソラリスの父親の名は、リゲルというらしい。

 その日は一台の小さなベッドの上で、ソラリスと向かい合わせになり、眠りについた。


      ***


 翌朝、まだ誰も起きていない時間に、目が覚めた。目の前に、ソラリスの顔がある。薄暗い中でも顔立ちが整っているのがよく分かる。

 私はそのまま、ずっとソラリスの顔を見つめていた。1時間ほど経って、ソラリスも目を開いた。

「おはよう。よく眠れた?」

 あの笑顔で私に問いかけてくる。

「うん」

 なぜかドキマギして、目を伏せてしまった。


      ***


「毎朝の水汲みがあるんだけど、一緒に来る?」

 木製のバケツを片手に持ち、ソラリスが私に尋ねる。

「うん、行く」

 二人で、村の中の水汲み場まで歩いた。そこでは井戸からポンプで汲み上げられた水が、一畳分くらいのスペースに貯められていた。これもまた木でできた水溜め用の容器は、膝くらいまでの高さだ。

「村の人達は毎朝ここに水を汲みにくるの」

 確かに周りには、老若男女様々な人がいて、色々と情報交換をしていた。でも私はもちろん、ソラリスも他の村人とは話そうとしなかった。

 ソラリスが柄杓でバケツに水を移す間、私も何気なくその水溜めを覗き込んだ。

 あ、私ってこんな顔してたんだ・・・

 祖父と同じように私も西洋人みたいな顔立ちをしている。目が大きくて、自分で言うのもなんだが、結構カワイイ。

 考えてみれば今まで、鏡は一枚もなかった気がする。

 もっとよく見ると、ボブくらいの長さの髪色がなんだか明るい気がした。自分の髪をつまんで見てみると綺麗な明るいピンク色が目に飛び込んできた。

 気づかなかった・・・ 一昨日目覚めてから目まぐるし過ぎて、自分の顔に気を遣う暇がなかったな。

 そんなことを思っている内に、ソラリスも水汲みを終えた。

「じゃあ行こっか!」

 ソラリスがそう言った次の瞬間、見ず知らずの男がソラリスの口を押さえ、そのまま抱えあげて連れ去った。

 持っていたバケツが落ち、水が飛び散る。

「山賊だーーー!」

 呆然と立ち尽くす私の耳に、そんな声が響いた。

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