第4話 始まり④
「え! この人達は一緒に来ないの!?」
私は、旅支度をしている周りの人たちを指差した。
「彼らはキャラバンだ。行き先も違う。感謝するんだ、ここまでリリスを馬車で運んでくれたのだから」
そうなんだ……
「旅の途中、行きあった人々と助け合うのは基本だ。魔物の活動が活発化してる今は特にな」
祖父は見たこともないような黒く大きな馬に、ガンジスはそれより一回り小さな白馬にまたがった。
暗いうちに見たときは普通の馬に見えたが、夜が明けた今よく見ると、目が左右に2つずつある。
私にも、ガンジスと同じような馬が準備されていた。いくら祖父の馬より小さいといっても、私にとってはめちゃくちゃ大きい。
鞍から伸びるつり革のようなところに足をかけるのにも一苦労し、それもあまりに高過ぎて、そこからどうやっても身体を持ち上げられる気がしない。
「どうしたんだ。普段は軽々と乗り回してるじゃないか」
祖父が怪訝な顔でこっちを見る。そうは言われてもさー。
結局、祖父が私の馬に飛び移って、私を引き上げてくれた。身軽っ!
***
キャラバンの人たちに手を振り、私達三人は出発した。
祖父は旅姿とは思えないほどフォーマルな恰好で、ベージュ色の上下に、白いスカーフ。シルクハットと手袋、そして羽織ったマントのみ真っ黒だった。
一方ガンジスは白を基調にした、ゆったりとしたラフな服装で、頭にくしゃっと潰れた帽子を被っている。
私は茶色くて、ボタンがダブルになっている革の上着に、動きやすいショートパンツとタイツとブーツ。そんな中でも膝上くらいの高さの、ふんわり広がったスカートが、淡いピンク色でカワイイ。
***
森の中を早駆けで突き進んでいく。この大きな馬はほとんど揺れなかった。馬の乗り方もよくわかっていないが、それでも勝手に走ってくれた。
基本的には普通の森だった。ただところどころ、見たこともないような植物が生えている。オレンジ色や青色で流線状の模様の入った、風船のように膨らんだ花が綺麗だった。
***
しばらくはなんの障害物もなく、森の中の獣道を走行していたが、少し先の開けた場所に人だかりが見えた。
「あれ、何だろうねー!」
馬で走ってる中、頑張って大声を出して祖父に尋ねたが、
「気にするな」
という声が聞こえてくるのみだった。
だが近づくにつれ、その光景の異様さが目に飛び込んできた。
普通の人だと思っていたが、よく見るとそれはまるでミイラ男のような、薄汚れた布切れにくるまれたような人型の"何か"だった。顔の真ん中に穴が開いており、その中はブラックホールのように漆黒だった。
「ねぇ! あれ何なの!?」
今度は少し前を走っているガンジスに、頑張って追いついてから尋ねた。
「あれは魔界の眷属でさぁ。魔界の瘴気を吸ったちり、あくたから生成されます」
「へー」
「魔界の封印が緩んでいると言いましたが、実際に破られたわけではないんです。問題は魔界の瘴気を吸ってあんな眷属が生まれたり、平和に暮らしていたモンスターが魔物になることなんです」
「魔物になったらどうなるの?」
「まずは凶暴になります。そしてわずかばかりの魔力を得る。基本的に今を生きるモンスター達はおとなしく人間と共存していますが、魔物になると人間を襲うようになる。そうなると今まで仲良くしていたとしても、我々も対処せざるを得なくなります」
「なんかそれ、悲しいね」
「へえ。私もグレムリンの親子と仲良くしていたんですが、母親の方が瘴気にやられてしまって……」
「殺しちゃったの?」
「いえ、ジャック様が麻痺させ、眠らせてくれました。ただ、これは魔界の扉を閉め直して瘴気の量を減らさないと治らないと」
「そうなんだ。でも良かった……」
「あっしにはジャック様がいてくれたが、この世で魔法を使えるなんて極々一部です。容姿も醜く変わり、凶暴化して襲ってきたから殺してしまった、もしくはこっちが殺されたなんて話は、たくさん聞きました」
封印しなきゃ。今まではこの二人に付いてきただけだったけれど、私の中でそんな思いが少し芽吹き始めていた。
***
その魔界の眷属というものの群れに近づくにつれ、その醜い姿がありありと浮かび上がってきた。あと、それと
「多くない!?」
ヌーの大群を彷彿とさせる、灰色の川の流れ。ちりあくたからできて知性も感覚も弱いのか、まだこっちの様子に気づくこともないが、それでも物理的に道を塞がれてしまっているので、通れない。
「このまま進め!」
祖父はとんでもないことを言ってくる。ダメだって! 事故るから!
だがそもそも止め方もわからない。そのまま突っ走る。
当たる!
そう思って目をつぶった直後、
「腹を蹴れ!」
そんな声が聞こえてきた。え? 急いで目を開く。ガンジスが馬の腹にかかとで蹴りを入れているのが見えた。
え、あれをするの? 何あれ?
もう、どうにでもなれ。その一心で、馬の腹を渾身の力で蹴った。すると、
ゴォーーーー!
自分が乗ってる馬が、ものすごい勢いで口から火を吹き始めた。
「ええぇーーー!」
「ちりあくたからできてるやつはよく燃えるな!」
その言葉の通り、目の前の眷属がことごとく燃やし尽くされ、道が開けた。火を吹く馬は、スピードを落とさずに突き進む。
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