第28話 跡をつける妻 ※ステフ目線
わたくしが闇魔法を駆使して早馬のような速さで走り、街に繰り出したところ、ミッチーはあっという間に見つかりました。
ミッチーは領主一族用の馬車でやってきているので、街行く人々も「領主様がきたぞ」「いや、お若いから次期侯爵様じゃないか?」と噂をしており、見つからない方が不思議なくらいだったのです。
何やらミッチーは、衣類店のようなお店に入って、物を選んでいるようです。いえ、あれはどちらかというと、衣類というより寝具……?
(いえ、問題はそこではありませんわ)
そう、わたくしは今、嫉妬で燃えたぎった瞳でギンギンにミッチーを見つめていました。
なんと、ミッチーの接客をしている店員が、若い女性なのです。
しかも、わたくしと違って、黒髪の落ち着いた雰囲気の女性です。
ミッチーは、いつも金髪赤ルージュの派手キャピかわいいわたくしと一緒にいるので、暗めの髪色、桜色のルージュの清楚かわいい女性に憧れを抱いているのを、わたくし知っているのです……。
(あんなに楽しそうな顔をして……何を話していますのぉ……ッ!)
ミッチーのいる店の向かいのオープンカフェのテーブルに座り、3枚目のハンカチを噛みちぎってしまったわたくしは、4枚目のハンカチを取り出します。
ふと、店内でミッチーが微笑みました。
その照れたような自然な笑顔は、若い女性店員に向けられています。
……わたくしもここ1ヶ月以上見ていない、自然体の笑顔です……。
「……」
ぽろりと、握っていたハンカチがテーブルの上に落ちます。
胸がズキズキと痛んで、締め付けられるようです。
(わたくし、ここに何をしにきたのかしら)
ミッチーは、わたくしとの結婚式が迫れば迫るほど、焦ったような思い詰めたような顔ばかりしていました。彼はわたくしと結婚することに関して、とてもプレッシャーを感じていたようなのです。
それが最高潮に爆発したのが、初夜でのあの「お前を愛することはない」発言だったのでしょう。
そのあと、ミッチーは不慣れな発言を繰り返し、わたくしに謝ろうと頑張ってくれていましたが、いつだって無理をしたような顔をしていました。
(彼がわたくしを愛していないということは、きっとないですわ……。だけど……)
流石にわたくしにも、もう分かっています。
この休暇中、ミッチーはわたくしのために頑張ってくれました。
ミッチーはわたくしのことを、彼なりに愛してくれている。
そしてわたくしは、焦って無理をして恥じらっている彼を見るのが大好きです。
けれどもわたくしは、彼が安らぐことが全くできないような結婚生活を強要したいとまでは思っていないのです。
彼がわたくしといて、本当に幸せになれないのなら……。
視界が歪んだかと思うと、ぽた、とテーブルに雫が落ちました。
いやだわ、雨でも降ってくるのかしら。
こんなことをしていないで、早く帰らないと……。
そう思って顔を上げると、パチリと向かいの店の店内にいるミッチーと目線が合いました。
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