第27話 一人で楽しむなんて許せない妻 ※ステフ目線
こんにちは、皆様。
今日も今日とて新婚ほやほや、新妻12日目のステファニーですわ。
『今君に言うことはできないが、侯爵家の存亡の危機に関わる内容なのだ』
そう言って、先程わたくしの夫はいそいそと街へと出かけていきました。
(わたくしに言えないこと? 存亡の危機?)
結婚休暇中に妻を置いて出かける理由として、まさかそんな回答をしてくるとは……。
(何を企んでいますの……何をしに街に行くつもりですの……)
良い方向に考えるならば、わたくしへの仲直り用のプレゼントの購入。
悪い方向に考えるならば、結婚休暇中に妻と仲良くできなかった鬱憤を晴らしに、他の女性を求めて街へ……。
(……ミッチーは、そういうタイプの男ではないと思うけれども……)
わたくしの初心でキュートな夫は、わたくしという妻がいながら
(わたくしが、下手に口付けなんかしたから……?)
わたくしは自らの犯した失態を思い出し、恥辱で頰を染めます。
あれはミッチーが悪いのです。
全部全部、ミッチーが悪いのです。
襲ってきたのはミッチーなのに、わたくしよりも驚いたような顔をして、初心な顔でわたくしを恨めし目に見ながらも、メガネの奥で揺れるベリー色の瞳には何かを期待したような色が浮かんでいて……。
(酷い罠でしたわ。なんという誘い受け。純情なわたくしが引っかかったのも無理はありませんわ)
毒蜘蛛よりも恐ろしい罠にわたくしは引っかかってしまったのです。なんて恐ろしい男なんでしょう。あんなに……色っぽく潤んだ瞳で見つめてくるなんて……絶対に絶対に絶対に許しませんわ。例え仲直りしたとしても、沢山お仕置きが必要ですわ!!
そして。
(あれで発情して、他の女のところに行ったなんてことがあったら)
おそらくないだろうとは思いつつ、他の女と仲睦まじくしているミッチーを想像したわたくしは、笑顔で手元のハンカチを引き裂きます。
「わ、若奥様?」
「あらっ、いやだ。おほほほ……」
怯える侍女達にわたくしは愛想笑いを浮かべます。
いけませんわ、考えていることが行動に出ていましたわ。おほほほ……。
まあしかし、おそらくミッチーは性格上、女のところに行ったりはしないでしょう。では、わたくしとの仲直りするための品を買いに?
(いえでもそうなると、侯爵家の存亡の危機イコールわたくしとの不仲ということに……?)
ミッチーには5人も兄弟姉妹がいるのですから、例えミッチーがわたくしに振られてこれから先再婚することができず独り身で一生を過ごすことになったとしても、後継に困ることはないはずです。
ですからこれも、きっと違うのでしょう。
(侯爵家の危機とは、きっと次期侯爵であるミッチーのストレスフルな精神状態のことに違いありませんわ)
となるとミッチーはやはり、わたくしの予想だにしない何かをしに街に繰り出したに違いありません。
きっとこの結婚休暇中の鬱憤を晴らすことのできる、女性を買う以外の、何かをしに……。
(そんな楽しいことを新妻のわたくしに内緒にするなんて……なんて酷い夫ですの……!)
こんな楽しいイベントを見過ごすわたくしではありません。
一人で楽しむなんて、絶対に許しませんわ!
わたくしは『しばらく部屋に篭るので絶対に部屋に入らないように』と侍女達に厳命し、むふふとほくそ笑みます。
わたくし実は、お忍びのプロなのです!
小さい頃から、ミッチーの跡をつけるべく、あの手この手で気配を消し、扮装し、潜入してきました。
あんな派手な侯爵家の馬車で出かけたミッチーの跡をつけることなんて、お手のものなのです。
(まずは髪と瞳の色ね)
わたくしの地毛は軽やかな金髪で、瞳の色も琥珀色なので、とても目立ちます。遠目から見たら黄色い旗印のようです。こんな目印はさっさと暗い色に変えてしまうに越したことはありません。
わたくしは手慣れた手つきで光魔法を操り、髪の色を焦げ茶色に、瞳の色を
この国の貴族は皆セイントルキア学園で魔法の使い方を学ぶので、このぐらいはお茶の子さいさいです。
(むふふふっ、ミッチーとお揃い……!)
焦茶色になった髪の毛をくるくると指に絡めながら、わたくしはニヤニヤと姿見を見つめます。わたくし、ベリー色の瞳もなかなかに似合っていると思うのです!
その髪の毛を、三つ編みにしてくるりと頭の後ろで束ね、暗い紺色のボンネットを深く被ると、いい感じに目立たない街娘感が出てきました。
(お化粧も控えめにして、そうそう自然な感じに……)
いつもであれば金色の髪に映える真っ赤なルージュをひくところを、今日は桜色の控えめルージュで抑えます。
そうして、庶民の買い物カゴを持って、ベージュのシャツに紺色のシンプルなスカート、安物の焦茶色の編み上げ靴を履いたら、簡素なモブ街娘の出来上がりです!
(完璧ですわ!)
出来栄えに満足したわたくしは、くるりとスカートを翻しながら窓辺に向かいます。
トントン、とジャンプしながら、アップを始めたわたくしは、3階にあるこの自室の窓から庭を見下ろしました。
(よし、誰もいませんわね)
わたくしの得意魔法は闇魔法。自重を調整したり、音を立てにくくするといった隠密魔法はお手のものなのです。先程の髪と瞳の色を変えた光魔法の方が負担が大きかったくらいですわ。
わたくしは自重を軽くしながら窓から飛び降り、ふわりと庭に降り立ちました。
(よし、ミッチーに追いつかないと!)
こうしてわたくしは、ウキウキと心を躍らせながら、護衛もつけずにたった一人でミッチーの跡をつけるという冒険に繰り出したのです。
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