結婚休暇6日目
第14話 夫が毎日、物陰から私をチラチラ見ているようですようです ※ステフ目線
皆様こんにちは、6日前に結婚したばかりの新妻、ステファニーですわ。
わたくしは、愛する旦那様に、初夜にして振られてしまった惨めな女なのです。
周りはよくよく話し合うようにと言ってきますが、元より嫌われていたという事実が発覚した今、何を話し合えばいいというのかしら。
皆、無茶振りが過ぎるのですわ。
****
「大体、ステファニーお姉様、お兄様に甘すぎるのよ」
「そんなことないわ。私が勘違いしていたのが悪いのよ、マイケル卿は被害者なのだから」
「お姉様は悪くないわ! あのヘタレドブネズミが全部悪いのよ」
「まぁ、すごい呼び名ね」
ここに来て二日目のカフェタイムに、義妹達はそんなふうにわたくしを慰めてくれました。
わたくしからすると、義妹達はわたくしに甘すぎるように思うのですけれども……好意が嬉しくて、わたくしは力なく微笑みます。
「ねえねえ、ステファニーお姉様!」
「どうしたの? マリー」
「例えばね、マ・イ・ケ・ル・お兄様! のいる別邸に引き取られたエリザベス(猫)を弄んだり、苛めたりする奴がいたらどうする?」
エリザベスを?
あの可愛さの塊、この世の宝石、空から舞い降りた天使を?
「処刑よ処刑! 絶対に許しませんわ。生きていることを後悔させてやりますわ……!」
「お姉様、そのぐらいの勢いで兄様もノしてやってよ」
「それは無理ですわ」
「断言が早い!」
だって、マイケル卿ときたら、仕草も見た目も性格も、全てがわたくしの心を締め上げてくる、わたくし特攻のまたたび酒みたいな存在なのです。ツンツンしながらもわたくしのいる部屋からは出て行こうとしない抜けているところとか、とってもキュートで、わたくしはもう十年以上もメロメロキュンキュンなのですわ。
けれどもわたくしは、彼に振られた身。
潔く彼のことを諦めねばならないのです。
この身を引き裂かれるような辛さも、しばらく彼の顔を見なかったら落ち着くのかしら。
そう思ってわたくしは、マイケル卿のいない本邸に身を寄せ、彼の面会の申出を拒絶し続けていたのです。
****
それなのに、それなのに……!
マイケル卿ときたら、私が本邸に来てからというもの、毎日わたくしに会いにくるのです。そしてわたくしが直接会わないと分かると、物陰からチラチラとわたくしを覗き見しているようなのです。
「あっ、また兄様が覗いてる」
「ああなったらもう、ただの変態の域ね」
わたくしは今、マイケル卿の妹であるマリアリーゼ、ミリアリーゼとともに、朝の散歩の最中です。
ため息をつきながら、マクマホン本邸庭園の朝露に濡れた美しい花々を眺めていると、二人がそんなことを言ってきました。
どうやら本日も彼はやってきたようです。朝早いですわね!?
大体、彼は私に会って、何を言うつもりなのかしら。
離縁……白い結婚……愛人…………?
わたくしが不意打ちのようにパッと後ろを振り向くと、確かに本邸の壁際から、真っ赤なバラの花束を持ったマイケル卿がチラチラこちらを見ていました。
わたくしはそんな彼を見て一瞬固まった後、いつものとおり、すぐにプイッと顔を背けます。
「効いてる効いてる」
「姉様、兄様ががっくり肩を落としているわ!」
「あんなでかい図体で隠れきれる訳ないのに、あれで忍んでるつもりだったのかしら」
そうなのです。
マイケル卿ときたら、あんなに大きな体でこっそりできるはずがないのに、必死にこそこそしていたのです。
「か、可愛い……! 本当に酷いオトコですわ、脈なしのわたくしの心をここまで捻じ上げてくるなんて……大嫌い……っ!」
「姉様、どこにも可愛い要素なんてありませんよ!?」
「うーん、何というマイケル狂信者フィルター……これはこれでお似合いなのか……」
落ち込むわたくしに、義妹達が冷たい言葉をかけてきます。けれども、彼の魅力で頭がいっぱいのわたくしには届きません。
「そういえば、ステファニーお姉様。そろそろアレの結婚休暇も半分終わったみたいですよ」
「休暇が終わったら、今みたいに毎日朝から晩まで姉様をチラチラ見るのは難しくなるでしょうね」
そういえば、マイケル卿は結婚休暇中なだけで、普段はお仕事があるんでしたわ。
彼は次期侯爵なので、学園の卒業後は、お義父様の下で領地経営について学びつつ仕事をしているのです。
そして、マクマホン侯爵家の嫁であるわたくしも、休暇後は一緒に領民の皆様に顔見せをする予定でした。
そろそろ、その辺りについて話し合いをしないといけませんね。
義両親や義妹、義弟達のお陰でわたくしの気持ちも少し落ち着いてきました。
逃げ続けるのも、この辺りが潮時かもしれません。
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