第13話 私は生まれ変わるのだ
ステファニーが、あのステフが、私に興味がない?
彼女は、本当に私を……。
(ステファニーは、本気で私を捨てる気なのか……!!)
ザーッとさらに血の気が引いていくのが自分でも分かる。
そして、自分がどれだけ彼女に依存して生きてきたのか、分かってしまった。
なにしろ、彼女がいつも私を逃してくれないから、私は彼女がいない人生など想像もしたことがなかったのだ。
いつだって私は、彼女から逃げ回っていて、私の行動や女性関係を制限しようとする彼女に辟易していた。
逃げたい逃げたいと、心から思っていた。
けれども、いざ彼女にこうして捨てられてしまうと……彼女が居ないなら、私は一体何をどうして生きていけばいいのだ……。
そこからは、よく覚えていない。
気がついたら、別邸に帰宅していた。
そして、執事とメイド長を向かいのソファに座らせて、どうやったらステファニーが帰ってくるのか、縋るように問い詰めていた。
「いやぁ、あの坊ちゃんがここまで愛に狂うとは、若奥様もやりますなぁ」
「本当に。若奥様はいつも坊ちゃま……いえ、若旦那様を甘やかしすぎだったのですわ。若旦那様にはこれぐらい冷たいくらいがちょうどいいんでしょうね」
「私もそう思います。そうそう、若奥様と若旦那様が初めてお会いになった時も……」
「覚えていますわ! 二人ともお可愛らしくて……」
「あの時も坊ちゃんはステファニーお嬢様に泣かされて……」
「そうそう、坊っちゃまときたら、口では嫌がっていらっしゃいましたのに、数日間ずっとステファニーお嬢様の話ばかりで……」
必死の形相の私に、二人は完全に孫を見るお爺ちゃんお婆ちゃん目線の言葉を延々投げつけてくる。
(なんなんだ、この二人は。私とステファニーを仲直りさせるつもりはあるのか!?)
「もういい! 自分で考える!」
「ふふ、それがよろしゅうございますね」
「ああ、若旦那様。妹御お二人から伝言と贈り物がありますよ」
「な、何ッ!?」
そう言って老執事が差し出してきたのは、また数冊の本だった。
『初夜に【君を愛することはない】と言われたので喜んだら、夫が私を溺愛してくるようになりました』
『初夜に【君を愛することはない】と言った旦那様は、ヴェールを外した私の姿を見て5秒で発言を取り消しました。どういうことですの? 一目惚れ? え?』
『初夜に【君を愛することはない】と言われたので旦那様を無視して義理の娘と楽しく過ごしていたら、旦那様が仲間に入りたそうにこちらを見ています。女性恐怖症とのことですから、無理しなくてよろしいんですのよ?』
『初夜に【君を愛することはない】と言う非常識野郎に、配慮と思慮が足りないと再教育をしていたら、なんだか愛されるようになってしまいました』
「こ、これは……まだあったのか……!」
「まあまあ、『愛なし初夜シリーズ』ではありませんか! ご婦人、ご令嬢に大人気の書籍ですのよ。私も全巻持っていますわ」
メイド長、お前もか!
「若旦那様、妹御お二人からのメッセージです。『この本を読んで、仲直りの秘訣をよくよく勉強しなさい』とのことです」
「……」
私は差し出された本をパラパラとめくる。
(……処刑……されてない…………されていないぞ! どちらかというと、これは元鞘じゃないか!?)
初夜に同じ台詞を吐いたというのに、今回の書籍の夫達は処刑されていない。
妻に怒られはしたものの、最後は円満な夫婦関係を築き上げている。
この違いはなんだ。どこからくるんだ?
昨日の書籍との違いはなんなのだ……。
熱中しだした私に、老執事もメイド長も呆れた顔をしている。
「あーなるほど、坊っちゃまは考察とかお好きですものね」
「マリアリーゼ様もミリアリーゼ様もやりますなぁ。坊ちゃんは掌の上、と」
結局その後の私は、二人が部屋を去ったことにも気がつかないくらい書籍に没頭した。
そうして、私は対ステファニーの技術力を着実に蓄えていったのである。
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