第12話 妻に本当に嫌われているかもしれない



 弟達の声を無視した私は、さっそく花束を抱えて本邸内をうろつく。


 そうして、ようやく目当ての彼女を見つけたのだ!


 彼女は庭がよく見える来客もてなし用のカフェルームにいて、妹達二人と共にティータイムを楽しんでいるようだった。

 庭が見えるということは、庭からも室内の様子がよく見えるということだ。

 私は窓の外、木の影からそっと彼女を見つめる。

 そうすると、彼女が話している内容を、わずかながら聞き取ることができた。きっと窓を開けているのだろう。不用心なことだ。


「……姉様、……」

「……のよ、…………」

「……るくないわ! ……」


 何やら落ち込んでいるステファニーを、妹二人――マリアリーゼとミリアリーゼが慰めているようだ。


 話がよく聞こえないなと思い、少し近づくと、妹達は私の存在に気がついたようだ。

 二人は眉を顰めたあと、何かを思いついた悪い顔をして、ステファニーに話しかける。


「ねえねえ、ステファニーお姉様!」

「どうしたの? マリー」

「マ・イ・ケ・ル・お兄様! の…………はどう?」 


 なんだ? 私の話をしているのか?

 マリアの奴、嫌なところだけ私に聞こえるように話をするな……。


 そんなことを思っていると、急にステファニーの顔つきが変わって、カフェルームにおどろおどろしい空気が立ち込める。

 そしてなんと、彼女はこんなことを言い始めたのだ。




「処刑よ処刑! 絶対に許しませんわ。生きていることを後悔させてやりますわ……!」




(な、何ッ……!?)


 なにやらステファニーは、親の仇でも見たかのような顔をしている。

 しかも魔法で作り出した黒い鞭を両手で持って威嚇するというオプション付きだ。


(そんなにステファニーは私のことを怒っているのか! こ、これはその、姿を見せたら殺されるのでは……!?)


 私の脳裏には、昨日妹達に押し付けられた書籍の結末が走馬灯のように駆け巡る。

 奴隷落ち。物乞い。不能になるほどの拷問。そして処刑……?


 血の気が引く思いで木の影から彼女を見つめていると、ミリアリーゼがステファニーにコソコソと話をしている。



 そしてなんと、そこからパッと、ステファニーがこちらを振り返ったのだ!



(ミリアあいつ、私のことをステファニーにチクったな!?)


 多分真っ白い顔をしている私を、ステファニーは5秒間ほど、真顔で見つめていた。

 見つめた後……。



 ――なんとステファニーは、私からプイッと顔を背けてしまったのだ。



(なん……だ、と……!?)


 私はそのことに、これ以上ないほど衝撃を受けた。


 だってだな、初めてステファニーが、私の存在を認識しながら、そっけない態度を取ったのだ!


 処刑? 拷問? と怯えていた時を上回る衝撃が、私を貫いたのだった。


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