第6話 妻による分かりやすい説明



「ちょっと待て。ステファニーは私に振られたのか?」

「他に誰がいらっしゃいますの?」


 恨みがましい顔で睨まれて、私は慌てる。


「あのくらい言っても、いつもは全然取り合わなかったじゃないか」

「マイケル卿の性癖だと思っていましたの」

「え?」


 ステファニーの言葉が、脳に入ってこない。


 私の……なんだって?


「あの……ステフ?」

「性癖だと思っていましたの」


 に、二回も言ったぞ!

 聞き間違いではなかったらしい。


「もっと分かりやすく頼む」

「分かりましたわ」


 ステファニーは頷くと、私からそっと離れて、魔力で黒い鞭を作り出した。


 彼女は闇属性の魔法が得意で、魔力を固めて物質化したものをよく便利そうに使っているのだ。

 相変わらず、見事な腕前で魔法を操るものだ。


 ……いや、そうじゃない。

 なんでここで鞭?


「あの、ステフ、ちょっと待っ……」


 全てを言い切る前に、彼女は私を鞭で縛り上げてしまう。


 そうしてバランスを崩して倒れそうになった私を、鞭に絡めたままヒョイとベッドに放り投げたのだ!


「うわぁあ!? な、何をするんだ!」

「オーダーどおり、分かりやすく説明するだけですが」


 鞭でがんじがらめで動けない私は、ベッドの上で、皿の上のチーズになった気持ちで震える。


 すると、ネズミ……じゃない、ステファニーが赤い舌でペロリと自分の唇を舐めながら、スーッと私の首筋をひと撫でした。


 ぞくぞくとした感覚に、私は「ひっ」と声を上げる。


「ほら、こういうの、お好きでしょう?」

「はあっ!? なっ、なにをっ、いや、ええ!?」

「ふふ、悦びでお顔が真っ赤ですわよ」


 ステファニーはうっとりと私を見つめながら、妖艶に笑んでいる。

 何を言い出すんだ、わ、私は断じて悦んでなんか……!!


 私が口をハクハクさせて何もいえないでいると、彼女は今度は、寂しそうな切なそうな顔をして、私を見つめた。


「わたくし、マイケル卿がつれない事を言うのは、こういうプレイだと思っていましたの」

「プレイ」


 なんだ、今日はやけに天気がいいな……。


 ハッ、駄目だ。

 脳がストレスから思考を逸らし始めている。


「こんなふうに、誰かに縛られて、動けないくらいがんじがらめにされて」


 彼女が、ふう、と耳元に息を吹きかける。


「や、やめ……」

「美味しく調理されるのが、お好きでしょう?」


 細くて柔らかい指の腹で、ふにふにと唇を弄ばれて、私は悔しさから涙目で彼女を睨みつける。

 彼女はそんな私を見て、愉しそうに微笑んでいたけれども、そのうち目を伏せてしまった。


「だから、マイケル卿がわたくしにつれないそぶりなのは、『もっと束縛して』の暗喩だと思っていたのです」

「そんな破廉恥なメッセージを送るか!」

「はい。マイケル卿は、本気でわたくしを嫌がっていたのですよね」

「え!?」

「わたくし、ようやく真実に気がついたのです」


 彼女が、私の唇を弄んでいた指を、そっと離した。


「だって、わたくしが全霊をもって迫った初夜に、わたくしに触れようとせずに抵抗なさっていましたものね。わたくしあれでようやく、プレイではなく本当に嫌われていると気がつきましたの」



 ハラハラと涙をこぼす彼女に、私はダラダラと冷や汗をかいていた。


 なんとなく、事情は分かった。

 このままだと、良くない方向に話が進んでしまうことも理解した。


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