無いものネダリ(音楽無能)

 時に西暦1980年代

 ラジオ生活にどっぷりハマりだしたのが、小学校五年生の頃。

 70年代の名画ソングや最新のディスコナンバー、フュージョンにマイナーなスタジオミュージシャンのPOP等々

 所謂いわゆる、アイドル歌謡とは一線を画す音楽に傾倒してしまった男。

 洋楽、邦楽を問わず、ひたすらラジオに嚙り付いて聞きまくり…じゃなくて、机に向かい勉学に励んでいました。


 しかし、高校一年の音楽の授業。

 その一回目の授業で己に音楽の才能が全くない事を痛感します。

 …楽譜オタマジャクシが読めません。

 ト音記号?

 何それ?

 美味しいの?

 という惨憺たる有様。

 同級生の何人かはギターを弾けるやつも居ましたが、コード進行しか知りません。


 音楽の先生が、窓際から特大のサジを放り投げていたのが、いたく記憶に残っています。

 …それでも、音楽の授業を無事収める事が出来たので、先生には感謝の一言です。

 どれほどの気苦労があったのかは、解りませんが…。


 そんな男でも、

 演奏をしたい!

 出来るかも?

 という時期が訪れます。


 実は、中学二年の時にコンピュータ(MSX)がやって来たのです。

 それも、「音楽の贈り物」という本付きで…。


 いわゆるDTMの先駆けみたいな事をしたわけです。

 と言っても、本と睨めっこをしながら、ひたすらキーボードでアルファベットと数値の羅列を入力するばかりでした。


 ただ、入力した結果が「音楽」として返ってくる。


 感動しました。

 …まぁ、ここで楽譜を読む訓練をしてれば、良かったんですがね。


 しかし、高校卒業と同時に生活環境が一変してしまい、コンピュータとの再会は大学入学後を待たなければなりません。

 もっとも、その頃には中学時代のコンピュータは姿を消し、実に無機質な時代がスタートしていたのですが…。


 ◇ ◇ ◇


 高校時代は、暗黒でした。

 そうは言っても、音楽は流れ続けていますし、ラジオだって聞いているのです。

 幸か不幸か、古ぼけたオルガンも鎮座していましたので、耳コピした音楽を実際に引いてみたりしていました。


 ちなみに、譜面と鍵盤の紐付けは一切出来ていません(胸張って言いますけど!)。

 まぁ、音楽方面は暗黒でしたが、諸々楽しい事もありましたので、そのくだりは別の機会に回すとしましょう。


 なお、当時聞いていた音楽も、やはり路線は変わらず、学校で歌謡曲談議に入ると、浮世離れの話で、周りからは白い眼で見られる男でした。

 仕方ないじゃん!

 すでに散会したとはいえ、YMOに傾倒してたんだからさぁ。


 ◇ ◇ ◇


 時代は流れ、初音ミクが諸々の音楽を世界に振り撒き、数多の作曲者が世を席巻するようになった昨今。


 相も変わらず、打ち込みソフトを探す男の背には悲哀が最も似合っているのかもしれません。

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