10:疑問
今不思議なのは、俺の目の前にいるこのトカゲである。
喋ってるんだ。
それもなんか歴戦の強者のような貫録で。
「奴とは五回やりあったことがある。どれもかすり傷一つ貰わずに完勝だった」
「へぇー、凄いんですね」
トカゲの妙な説得力に相槌を打つ。
どうやって勝ったんだとは、聞ける雰囲気じゃなかった。せっかく助けに来てくれたというのに疑うような真似は失礼すぎるからな。
でも気になる。
尻尾の長さも含めて俺の手の平に収まってしまうほどの存在が、どうして凶悪極まりないモンスターに勝利することができるというのか。
「案ずるな。既に奴は袋のネズミよ。まんまと誘い出されてくれたわ」
「なんだ。有利な地形へと誘導してたんですね。流石だなあ」
彼の言葉に心底安堵する。トカゲだからと侮っていたが、俺の心配をこうも見事に取り除いてくれるのだから、信用に足る人物だと疑いようもない。
コツ。コツ。コツ。
足音が近い。
しかし全てをこの御仁に任せるしか俺に道はないと思えば、なんと心軽やかなことだろうか。
緊張の糸が緩んでしまう。
緩み過ぎて……あくびすら出る始末。
深呼吸。これほどまでに空気をいっぱいに吸い込んだのはいつぶりだろうか。
うっ!
この洞窟多湿すぎて――ムセる!
「ゲェェェッ! ガッホ! ゴホッ! グエエエッ! ガハァ!」
我ながら咳が汚い。
す、すみませんトカゲさん! 勝手に大声を出してしまって、作戦に支障はないですか!?
未だに咳き込みながらも申し訳なさの意思表示をジェスチャーで行う。視線の先のトカゲさんは――。
「クックック、問題ない。それにしても肝の座った男よ」
笑い飛ばし、むしろ褒めてくれた。
なんて心の深い方だ。
――たけど、あれ?
目の前のトカゲさんは、こつ然も姿を消していた。
そして余裕綽々といった声がした方向は、遥か頭上からだった。
見上げる。
天井のゴツゴツ鍾乳石の隙間に彼を見つけた。
「あの、トカゲさん。どうしてそんなところに?」
「なに、そろそろ戦闘準備の頃合いだからな。お前はそこで見守ってるがいい」
そうか、そうだよな。
タイミング的に一緒だっただけで、何も俺の汚い咳にビビったわけじゃないよな。いやもしそうだとしてもいきなり驚かされれば誰だってビビるし、そこを批難してはいけない。
批難するならもっと、致命的な箇所をだ。
例えば、トカゲさんの小さな全長が、半分くらいになって更に小さくなっているとか。
あの、なんで、尻尾どこやったんですか。
なんで自切してるんですか。
俺の足元で、ウネウネビタンビタンともんどり打ってるこの尻尾、キモ過ぎませんか。
「クックック、それは敵を撹乱するための囮だ」
なんであなたさっきから、俺の心の声に返事できるんですか。
あ、ところで不意に疑問が浮かんだんですけど。
――なんで日本語知ってんの?
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