11:肋骨スライス
――なんで日本語知ってんの?
途端に、俺は弾けた。
そんな疑問が俺を、文字通りに駆り立てた。
走れ――!
走れ走れ走れ!
死にたくなければ――死ぬまで走れ!
まさかあの女神がのスキルに【異世界語自動翻訳】なんて、便利なものがあるはずない。だからあのトカゲは、間違いなく日本語で俺と会話していた。
いやそもそもトカゲが喋るかよ!
極度のストレスによる認識障害。
その可能性はあるだろうが、おそらく違う。
普通に考えて、いや異世界だし百歩譲ってトカゲが喋ることはあったとしても、あれだけ歴戦感を出されたとしても信じるバカはいないだろ!
危なかった。
おそらく精神支配系の、何かしらをされた。
女神ビームみたいな強制力がなかったのは幸いだな! それでも運良く咳き込みでもしなければ今頃……!
しかしよかった。寸前で気付いて逃げられたんだ。
このまま急いで遠ざか――?
あれ?
俺……どっちに逃げた?
足音がした方向にきちんと背を向けてたよな? トカゲの話し声を無視して、段々遠ざかっていく俺を呼ぶ声に後ろ髪を引かれつつ……。
あれ、でもそれはそもそも幻聴だったわけで……。
ならどうして、足音が幻聴じゃないなんて言い切れるんだ?
あれだけ近くに聞こえたのに、なんでいつまでたっても影も形もなかったんだ?
精神支配系の攻撃。
いつけしかけられたかもわからないのに、どうしてそれを打破した気でいられるんだ?
……最速で逃げたいのであれば、一秒でも生き永らえたいのであれば。
絶対にやってはいけない。
後ろを、振り返るという愚行。
それでも、やらざるを得ない。
理由は二つ。
己の判断の正しさの証明。自分が自分の意思で起こした行為の裏付けとして、敵は俺の後ろにいなければならないからだ。
もう一つ。
最も度し難く、始末に置けない理由だ。
それは、ただの好奇心。
何がいるんだろう? 何しているんだろう?
俺は、どうなってしまうのだろう?
――首が、旋回する。
そいつは全身が白かった。
白装束を頭からかぶっているのかと一瞬だけ錯覚したが、すぐに間違いだと気づく。
むしろそいつは、肉も皮も脱ぎ捨てて、カラッカラに乾いた骨ばかりのラフな格好で、そこにいた。
ビチビチうごめくトカゲの尻尾をガン見して、立ち止まっていた。
「めっちゃ囮効果あるじゃああああああん!?」
スケルトンだ。
人間の骨格標本がそのまま動き出したって感じの人骨がそこにあった。
あまりの驚きに発した絶叫に、スケルトンはようやく俺を目で追いかけた。骨の身体で眼球なんてないだろうに、しかし眼窩の漆黒は確実に俺を認識していると確信できる。
だが、もう遅い!
ここまで離れれば追ってはこれないだろう。悔しそうに地団駄を踏むシュールな絵を想像して、ニヤリと口元が緩んだ。
意に反してスケルトンの猛スピードは、コンマ一秒で俺との距離をゼロにした。
轢き殺されるかと思った。
奴の肋骨にスライスされるかと思った。
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