7:チュートリアル希望
水滴が垂れて、脳天に直撃する。
痒くはないが反射的にポリポリと引っ掻いて、一歩ズレる。
ぴちょん。
頭に落ちた雫が額に垂れて、今度はちゃんと痒いのでポリポリした。
またズレる。
ぴちょん。
とうとう、参った。俺の負けだ。
堪らず天井を見上げると瞳を直撃したものだから、無言で悶えて観念した。
鍾乳石でびっしりと埋め尽くされたこの洞窟の天井は、空気中に飽和した水分をその先端に集めていやらしく俺を狙うのだ。
白い空間から意識を失い、気が付けば辺りはゴツゴツの岩肌に囲まれていていた。
広さは直径で20mくらいか?
薄暗くて通路の奥までは分からないが、俺の周りはなんだか淡く発光しているようで、なんとか視界を確保できている。
クソ女神はダンジョンに召喚されると言っていたが……迷宮というよりは洞窟だな。しかし鍾乳洞ってのは肌寒いイメージがあったけど、ぽかぽかと暖かさすら感じる。
魔王よりも強い敵がいるという話だから、モンスターが逞しく育つような環境なんだろう。マナ的な何かが豊富とか。知らんけど。
第一モンスターという存在の強さがそもそも分からないから驚くことも絶望することもピンとこないのが現状なんだよな。
クマとかライオンとかよりも強いのだとしても、今度はクマとかライオンの次元がわからん。どんどんスケールダウンしていっても「あーなるほど!」とはならんだろう。
しかし、俺の弱さは予想できている。
俺は一般人よりも弱い最弱ステータスとして召喚された。では一般人とはどれくらいの強さだって話になるが、それは簡単に説明できる。
俺だ。
元の世界でスタンダードオブ平凡だった俺と勇者となった今の俺が戦えば、勇者俺が負けるということだ。
過去の自分に打ち勝てない勇者ってどうよ?
――違和感を感じたのは、水滴から逃げていた最中だった。
俺が動くと光源も付いてくるような感覚を覚えた。
前進すると、光が届く範囲がそれだけ移動した。
下がるとまた、歩いた歩数分だけ明かりの端もついてくる。
常に同じ光量で景色が映し出される俺の視界。
懐中電灯を持っているわけではない。
松明の炎というわけでもない。
――スキル。
これは確信だった。
間違いない、これは女神が与えしユニークスキル。
俺自身が発光している。
……冗談だろ?
他に、何か別の特殊能力みたいなのがあるんだよな? 女神曰く【絶対に役に立たないゴミスキル】だとしても、たったこれだけの、体が光るってただそれだけなんてこと……ないよな!?
この身に炎を宿しているとか? 出ねえ。
雷! うおォン! 俺はまるで人間火力発電所だ! 出ねえ。
出ねえ。
火も電気も出ねえ。
まさかとは思ったけど、ここまで使いようがないスキルを、普通勇者に渡すか!?
いや、今は強制的に洞窟スタートだから、結果として視界が確保できてるけどこんなの、それこそ松明の一本でも持ってれば不要なスキルだろ!
待て待て、こんな調子じゃ、あと七つのユニークスキルだって期待できないぞ。
それとも真に隠された能力が備わっているのか? そうだと言ってくれ!
はっ!?
そういえば本来なら八人の勇者に、このユニークスキルは一つだけの予定だったんだよな? こんな役立たずどころか、むしろ場合によっては邪魔になるようなスキルを、ただ一つだけ。
それで、ステータスもゴミって……。
悶絶。
頭を抱える。頭皮を掻き毟る。
スキルはゴミ。ステータスは最弱。その上、武器すらない。
そんな状態でポイと投げ出されたダンジョンの真っ只中。
これでどうやって戦えばいいんだ!?
「せめてチュートリアルくらい挟めよぉ……!」
胃がキリキリしてきた。お腹を押さえてうずくまると、なんだかもう指一本たりとも動かしたくなくなってしまった。
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