3:八番目の勇者
二番目はリアルを軽視しても差し支えない程度の人材を選んだという。
喧嘩負けなしの一匹狼で、ヤクザすら下につかせる武力と人望を持っていたらしい。
彼は女神にこう言ったそうな。
「異世界? いや無理やろ。スマンがビジョンが全く見えへんわ。こんなワイでも命は惜しいねんな」
三番目。
基本的なスペックは二番目と同じくらいだが、今度は既に事故で死んで惜しむ命がない最適の人材だ。
今度こそと思ったが、案の定失敗に終わる。
「すんません。未練ないんで」
そう言って成仏したそうな。
その後も次々と異世界の勇者になろうという者は現れず、八番目に選ばれたのが俺ということだった。
女神様の深いため息が聞こえる。
俺も、ふう。と息を吐かずにはいられなかった。
八番目か。
いや、全世界の人口七十億人中の一桁ナンバーだし十分に名誉なことではあるのだが、しかしそうか……。
一番がよかったなあ。
「あ、ヤバい! 女神ビーム!」
「ぎゃああああばばばばばばばばば!」
ののの脳みそがフットーしゅるるるう!
し、死ぬかと思った……! しかし、俺は何を血迷っていたんだ。むしろ八番目こそ物事を決める上で最も重要な位置に置くべきナンバーではないのか。
つまり俺は女神様に最も必要とされていたということ。
何より八って数字大好きだし俺。末広がりで。
……なんで今ビーム撃ったん?
「え、洗脳した?」
「いいえ? それより、どうか異世界の勇者になって頂けませんか。もう、貴方しかいないのです」
確かに八番目に俺を選んだということは、最早これ以上の本命はいないということだ。
まあそんな俺とすれば……。
別に異世界へ行っても構わない。
代わり映えのない毎日を惰性で生きていた感はある。
死にたくはないが、それは痛みや苦しみが怖いからじゃない。
何か一度でも大きな事を成し遂げたことがないまま人生を終わらせてしまうのが、たまらなく悔しいからだ。
それは漠然とした意識でしかなく、それといった努力もした覚えはない。
社会に揉まれて無個性な一般人となっていく途中で、いつしか忘れ去ったものだ。
だが女神様はそんな俺に挽回のチャンスをくれるという。
願ってもない。
ははっ。何が「別に異世界へ行っても構わない」だ。偉そうに。
本当は異世界に行きたくて行きたくて堪らなかったんだろ。この俺は!
スマートぶってんじゃねえ!
叫びたいんだろ!
心から!
「わかった、引き受けます。勇者として、必ず異世界を救ってみせる……。なんで耳塞いでるんですか?」
「あれ? 叫ばないんですか? いいんですよほら、どうぞ思いっきり!」
いや、いいよ。
例え許可があっても流石に人前で大声出すような行為はちょっとTPO的に弁える。
つーかちょくちょく心読むのやめてほしい。
裸見られるくらい恥ずかしいから。
故に今って恥の上塗り状態だからね。
やめようね? あとそろそろ服くれない?
天国へ行き着けるのは魂のみなので、服は地上に還る場合に同時に顕現してくれるとのこと。
女神様は俺の心を読み取ってそう笑顔で告げた。
神に対して持つべき感情ではないが、失礼ながらも少しイラっとした。
「はあ……。それで、まさかとは思うけどこんな対して取り柄もない一般人をそのまま異世界の勇者として祭り上げる訳じゃないですよね?」
「うふふ。流石は勇者様ですね、そういった物分りの良さも、貴方様を選んだ理由の一つですよ」
やっぱりそうか。というかそれがなきゃ俺なんて、電気のヒモといい勝負をするくらいの戦闘力だぞ。
あるに決まってんだろ。
女神の祝福! 恩恵! 慈愛!
勇者が勇者たる由縁の、なんか凄いとっておきの能力を授けるお決まりパターンがな!
女神様がニヤリとほくそ笑む。
「お察しの通り、異世界では勇者様の
――ん?
想定していたものよりも遥かにスケールが小さい内容の中に、何かさらっと爆弾発言がなかったか?
「あの、女神様……一つ質問いいでございますか?」
「はい、なんなりと」
挙手でもってお伺いを立てる。
余りにも理解に苦しむ内容だったためにおかしな丁寧口調になってしまった。でも今まさにおかしいのはこの女神の発言なのは間違いない。
「ステータスが、誰よりも低いとは、どゆこと? え? 俺って勇者として召喚されるんですよね? 聞き間違い?」
「いえ、何一つ間違ってはいませんよ? 貴方様は勇者として、そして一般人以下の最弱ステータスとして召喚されます」
女神様がニヤリとほくそ笑む。
「だって私、落ちぶれ勇者の成り上がりが、何よりも大好きなんです!」
――は?
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