2:女神ビーム
考えてみればそもそもがおかしいんだ。
俺がこんな金髪美女と間違いがあったとしても一夜を過ごすことなんてあり得ない。自分の顔面レベルは把握しているつもりだ。
それにこんな天国と見紛うばかりのホテルなんて見たことも聞いたこともない。
つまりここは、見たことも聞いたこともないほどの最高級施設。
金髪美女は一夜の過ちではなく一夜限りのサービス業。
そしてこの勇者プレイの対価は……。
おいくら万円!?
二桁は必至!
まさかあるのか……三桁万円……!
「勇者様、ご心配には及びませんよ。私との間に不貞行為はありませんし、お金も必要ありません」
「うおっ、また口に出てたか!? 独り言、癖になってんのかな」
「いえ出てませんよ。ですから心を読み取ってですね……」
え? いま喋ったつもりだったけど心の声だった?
うそ! 発音してるのかしてないのか、もはや自分で自分がわからん! いや落ち着け、相手は女神ロールプレイしてるだけ!
心が読めるなんて、俺の表情の豊かさ故だ! あれ、いま喋ってる?
「いや、あのですね、うーん……」
思考回路と言語中枢が混乱の最中、女神を自称する美女はおもむろに人差し指を向けた。
「女神ビーム!」
「ぎゃああああばばばばばばばばば!」
刹那。掛け声と共にその細くしなやかな指先が煌めくと、虹色の光線が我が身を焼き尽くした!
そして唐突に理解する。
俺はこのお方に天国へと導かれ、勇者としての使命を授けられたのだ。
異世界ではモンスターの狂暴性が増し、飛躍的にその個体数を増やしているという。また異常なまでに人類への敵対心を示しているらしかった。
それは種の違う様々なモンスターが徒党を組み、各地の人里を壊滅させるまでに問題は深刻化しているのだとか。
原因は、魔王の出現。
俺の使命は、その諸悪の根源である魔王を討ち滅ぼし、異世界に平和を取り戻すこと。
――らしい。
女神様の指から放たれた光線に焼かれた瞬間、俺はこんな信じがたい事実をこうも易々と受け入れてしまった。
あとビーム自体に攻撃力はなかったようで、俺の体に外傷は見当たらなかった。
脳みそに直接スタンガンをブチ込まれた気分だけど。
「私の意思を相手に直接植え付ける女神ビーム。やはり便利ですね」
それって洗脳じゃん。
声に出さずに非難した。
「では勇者様。これでお分かり頂けたかと思いますが、異世界に危機が迫っております。どうか、お救い頂けませんか?」
いやそんなことをいきなり言われても……。
第一、なんで俺なんだ? 二十四歳と三ヶ月。確かに会社では若手と言われてはいるが、そんなのピチピチの十代のほうがやる気も体力も満ちているだろうに。
この疑問に女神様は渋々ながら答えてくれた。
ようするに、他の候補者には全て断られたというのが実態のようだ。
一番最初に声を掛けたのは、それこそ十代前半の少年。
賢しく機転が利き、目立った身体能力こそないが行動力と応用力を兼ね備えた正に主人公体質。
そんな彼が、なぜ異世界転移なんていうシチュエーションを断ったのか。
「リアルが充実し過ぎて異世界にかまけてられない……そうです」
興味はあるけど、僕が居ないことで周りに及ぼす影響が計り知れないと言ってのけたらしい。
リアルが飽和してんのかよそいつ。
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