女神・ザ・クッキークリッカー! ―女神を殴るごとにレベル上がるんですがそれは―
八幡寺
1:天国と女神
状況を確認しよう。
俺は今、全裸だ。
全裸で金髪美女の前に立っている。
そして美女は、薄いレースカーテンのような布をその身に纏うのみで、白くきめ細やかな肌を隠しきれずにいた。
全てを悟った俺は天を仰ぎ――心の中で吠えた。
ちっくしょおおおおおおおおお!
覚えてねええええええええええええ!
なぜこんなことになった。昨日は会社帰りに行き付けのバーへ足を運んで……?
あれ、そこから記憶がない。酔い潰れるまで飲んだくれた経験なんてこれまでなかったのだが、昨日の最後の記憶と現状で辻褄が合わないということは、俺はおそらく、ハメを外し過ぎたのだ。
その原因が、恐らくこの美女。
見覚えがない。昨日バーで知り合ったのかも知れない。
そして意気投合。
酒の力もあって一夜の過ち……。
もったいねえええええええええ!
何一つ覚えてねえええ!
彼女を見る。
目合うと、にこっと微笑んでみせた。
一夜明け、俺みたいな男と一線を越えた事への後悔はない、ように見える。少なくともその優しい笑みからは負の感情は読み取れない。
今からツーチャンス目、あるか?
おもむろに手を伸ばすと、肌が透けるほど薄い布越しに膨らむ双丘がすぐそこに待っている。
いや焦るな。ここでガッつくのは時期尚早。
伸ばした手を理性でもって引き戻す。
落ち着け。酒の力がない今、ステップは一段階ずつ踏んでいかなければ自滅は見えている。
何せ名前だって覚えていないのだ。
行為も覚えていないとか、男の恥であると同時に女としても屈辱だろう。だから覚えていないという事実は隠し通さなければならない。
情報がほしい。
俺は、さも『昨日はお楽しみでしたね』と言わんばかりにはにかみ、彼女の反応を待つことにした。
俺からだとボロがでる。
だから待つ。向かい合って、彼女の一言目を懇願する。
全裸で。
「お目覚めですね――勇者よ」
どんなプレイしてたの?
焦りを隠そうとも、顔に出る。そういう性格だ。引き攣っている表情筋のなんと間抜けなことだろうか。
すると、俺が想定していた事態とは、ちょっとだけ……いや、大分違った状況だということが判明した。
今更気付いたが、辺りがやけに明るい。
晴天の真っ只中というのとは違う、壁やら床やら天井やら全面にLEDライトを埋め込んだような真っ白な明るさ。
かといって目が痛くなりそうな電子の光でもない、自然光のように思える温かみがある。
かなり高級なホテルに泊まってしまったのだろうか。
境目すら見えない白さに加えてとてもふわっふわな足元。まるで雲の絨毯だ。ここは天国ですか?
「はい。天国ですよ」
天国だった。
ここは天国ですか? とでも言いたげな顔をしていたのだろう。美女が答えてくれた。やはり俺にポーカーフェイスは難しい。
「うふふ。違いますよ。心の声を読み取っただけです。女神たる私は、我が子らの声を一つとこぼさず聴くことが出来るんです」
どうやら心を読まれていたらしい。
なるほど。てっきり「ポーカーフェイスは難しい」と言わんばかりの表情をしていたのだろうと思ったが、心を読まれたとあってはかなわないな。
何言ってんだこいつ。
いやマジでどんなプレイ内容!?
そして事後もノリノリでロールプレイングとかこいつ、サービス精神の権化かよ。
……もしかしてプロか?
そういうお店のプロの方か!?
天国と見紛うほどの白くふわふわな高級室内。
それこそ女神のような美女。
特異なプレイ内容への対応力としっかりとしたアフターケア。
全てを悟った俺は天を仰ぎ――心の中で吠えた。
ここどこの高級ソープランドだあああああああああん!?
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