第11話

気づけば毎週日曜日、秋川と会っていた。動物園に行ったり、遊園地に行ったり、秋川の運転する車で海にも行った。


浜辺を歩いている時、秋川に「せっかくだから定番のやつやるか」って言われて、何の事かわからず首を傾げていたら、いきなり秋川が走り出した。「理桜、遅いぞ」なんて煽ってくる。ムッとした。これでも元陸上部。足には自信がある。


秋川を追いかけて、ジャケットの裾を掴もうとしたら、あと一歩の所でかわされる。悔しくてムキになって秋川を追いかける。今度こそと思ったら、また逃げられる。そんな事を繰り返していたら、海が茜色に染まる。


あまりにも綺麗だったから、思わず立ち止まって見てしまう。秋川も立ち止まって眩しそうに目を細めて海を見る。


チャンス! 秋川に飛びついた。


秋川が転んで仰向けになった、その上に私が重なる。バニラの香りがして、キスしそうな距離に秋川の顔があった。


心臓が飛び跳ねた。


慌てて離れようとしたら、秋川に強い力で引き寄せられた。キスされる……そう思った時、秋川が可笑しそうに笑う。


秋川にからかわれた。やっぱり腹が立つ。もうって怒って寝転がったままの秋川の胸を叩いてやった。


波の音が聞こえなくなる程、私の中でうるさく心臓が鳴っている。どうしてこんなに秋川に動揺しているんだろう。秋川に会う度に心が揺さぶられて、楽しくて、胸がドキドキする。


「そろそろ帰ろう」


起き上がった秋川の言葉にデートの終わりを感じて、寂しくなる。

夜も一緒にいたいけど、秋川はどんなに遅くても午後6時には私が家に帰れるように送ってくれる。「勉強しろよ」って別れ際はいつも言われた。


成績が落ちたらデートはなし。そう秋川に言われて、机に向かう時間が増えた。嫌いな勉強が少し好きになった。


予備校ではみんながいない所で秋川は手を握ってくれたり、頭を撫でてくれたりして、可愛がってくれるようになった。秋川はちゃんと彼氏をやってくれている。余命半年の私が人生最期の恋を楽しめるように。


秋川が優しいのは決して私を好きだからじゃない。可哀そうな私につき合ってくれているだけ。


段々、秋川といる事が苦しくなってくる。

本当の事を言って、この関係を終わりしなきゃって思うけど、秋川の顔を見ると、いつも言えない。もうすっかり好きだから。

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