第10話

日曜日、秋川から映画に行かないかって誘われて、映画館まで行った。紺色のジャケットに黒いチノパン姿の秋川がスーツの時よりも若く見えて、心臓がドキってした。


シアタールームで隣に座った秋川からはいい匂いがして、ドキドキする。香水つけているのかな。この香りはバニラ? そう言えば予備校でも、秋川の近くに行くとこの匂いがしていた気がする。今まで全く意識していなかった。


あっ、映画の時は秋川、眼鏡かけるんだ。鼻筋が通っているから眼鏡も似合う。こうして見ると秋川はカッコイイ。


塩顔なんて全然タイプじゃないのに、どんどん秋川がカッコ良く見えてくる。


「面白かったな」


映画が終わって、眼鏡姿のまま秋川がこっちを見る。目が合って鼓動が大きく脈打った。息がつまりそうな、胸が締め付けられるような、そんな気持ちが鳩尾の奥に溢れて、秋川から逃げるように席を立った。


何かに引っかかって、転ぶ。


「理桜!」


転びそうになった私を秋川が支えてくれた。

名前を呼ばれた瞬間、かあっと顔中が熱くなる。


支えてくれる秋川の硬い手が熱い。

男の人の手なんだ。大きくて、骨張っていて。


「理桜はそそっかしいな」


また理桜って呼ばれた。現代文の授業で、朗読する時のあのちょっといい声で呼ばれるとときめいてしまう。


これはヤバい。本当に好きになっちゃう。

帰らなきゃ。秋川から早く離れなきゃ。


そう思うのに、カフェに誘われて断れなかった。

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